<社説>金正男氏暗殺 関係国が連携し徹底解明を


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 北朝鮮の最高指導者である金正恩労働党委員長の異母兄、金正男氏がマレーシアの国際空港で殺害された。毒殺が確実視されている。

 正男氏は故金正日総書記の長男で、一時は後継者とみられた人物だけに、事件は国際社会を震撼(しんかん)させた。
 犯行が確実に撮影されることが予測できる監視カメラだらけの国際空港で、複数が関与して毒物を用いる大胆な犯行の裏に何があるのか。殺害を指示した首謀者は、多くの報道通り、正恩氏なのか。
 死因が特定されていないなど、謎が深まるばかりだったが、輪郭が少しずつ浮かんできた。北朝鮮の関与が濃厚になりつつある。そうであれば、体制の障害になり得る人物を粛清する恐怖政治の一環であり、他国がマレーシアの主権を侵害する重大犯罪でもある。
 搭乗手続きを取ろうとしていた正男氏は、既に逮捕されている2人組の女性に毒物を吹き掛けられ、殺害されたとみられる。毒物は猛毒のVXガスとの見方もある。
 北朝鮮国籍の男1人を逮捕したマレーシア警察は19日、初めて記者会見した。別の北朝鮮国籍の男4人を容疑者として特定し、出国後の行方を追っている。
 北朝鮮内の情報に精通し、テロへの分析力がある韓国政府は、北朝鮮工作員による犯行で、正恩氏の指示があったと見ている。
 韓国政府によると、金正恩体制の5年間で幹部約140人が処刑された。その中には、正男氏の生活を支えていたとされる叔父の張成沢元国防副委員長もいた。
 正男氏は「権力の3代世襲には反対だ」と批判していたが、北朝鮮の権力中枢から遠ざかっていた。しかし、疑い深い性格とされる正恩氏が粛清を指示したとの見方が国際社会で強まっている。
 北朝鮮側は司法解剖に強く異を唱え、警察の解剖が遅れた。証拠隠滅を図ったとの見方が出ている。
 北朝鮮とマレーシアの関係は深い。関係悪化を招かないため、マレーシアの捜査が弱腰になってはならない。
 核開発を進める北朝鮮に国際社会は神経をとがらせている。北朝鮮情勢の緊迫は、在沖米軍基地にも影響しかねない。
 情報が錯綜(さくそう)する中で各国の足並みが乱れては卑劣な暗殺行為の真相解明の足かせとなろう。北朝鮮への影響力を持つ中国など、関係各国が連携を強めてほしい。