<社説>残業上限規制 これでは過労死なくせない


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 月100時間の残業を認める政府案では過労死はなくならない。残業時間を圧縮し「過労死ゼロ」を実現する本気度が問われている。

 政府の「働き方改革実現会議」に提出された議論のたたき台となる政府案は「月平均60時間、年間計720時間」の残業の上限を示した。その一方で、企業の繁忙期には「最大で月100時間」、2カ月連続で「平均80時間、計160時間」の残業を認める内容だ。
 厚生労働省が労災認定基準とする脳・心臓疾患の「過労死ライン」は「1カ月100時間超」「2~6カ月平均月80時間超」である。
 政府案の「月100時間」「2カ月平均80時間」は「過労死ライン」ぎりぎりの残業時間であり、これを満たせば過労死がなくなるとは到底、思えない。
 2015年末、自殺した電通女子職員は、うつ病発症前1カ月の残業時間が105時間だった。100時間を超える残業を強いられた結果、自殺に追い込まれた。
 昨年、厚労省がまとめた初の「過労死白書」でも2015年度に脳・心疾患で労災死が認定された96人のうち、月平均80時間以上の残業をしていた人は、9割以上の89人に上る。
 政府案の「月100時間」「月平均80時間」の上限は、過労死の根絶でなく、電通職員の過労死の事例や「過労死白書」をぎりぎりクリアする基準としか思えない。
 労働者側の連合が「過労死、過労自殺を根絶するには程遠い」と批判するのも当然だ。
 政府は実現会議の議論を受け、労働基準法改正案をまとめる予定だ。労働者側の批判に向き合い、政府案の残業上限時間を大幅に見直し、圧縮すべきだ。
 現在の労基法は労使間の「36(サブロク)協定」により残業時間が事実上、青天井となっている。政府案が残業の上限や罰則も定める方向なのは半歩前進と言えよう。実効性ある具体的な規制を練り上げてほしい。
 政府は研究開発など高収入の専門職に残業代を支払わずに済む労基法改正案も上程中である。
 同法案は「残業代ゼロ法案」と酷評され、サービス残業の増加がさらに過重労働や過労死を助長しかねないとの批判がある。
 安上がりで長時間の労働を確保したい企業側の意向に偏らず、労働者の健康と賃金アップに配慮した労基法の改正を目指すべきだ。