<社説>ハンセン病被害賠償 救済の道閉ざしてならぬ


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 ハンセン病患者のうち療養所に入らずに亡くなった非入所者の遺族にも、賠償請求権の相続を認める和解が、国と遺族の間で初めて成立した。

 隔離政策の根拠となった「らい予防法」は1996年4月に廃止された。民法の規定上、20年が経過すると、元患者らに支払われる補償金の請求は認められない。
 和解にこぎ着けた沖縄などの非入所者3人の遺族4人は、賠償請求期限(2016年3月31日)の2日前に東京地裁に提訴している。ぎりぎりになって裁判所に訴えた背景に何があるのかを、国は考えるべきだ。
 非入所者のほか、提訴前に死亡した元患者の相続権が確認できた遺族についても02年1月に和解が成立した。和解基本合意書は非入所者の遺族には触れていないが、賠償金を支払うことで今回和解したのは、非入所者の遺族への責任を国が認めたということである。
 国が責任を自覚していたのなら、早い段階で非入所者の遺族も補償対象であることを積極的に周知し、併せて請求しやすい環境も整えるべきではなかったか。
 非入所者は米国統治下に置かれ、在宅治療が認められていた沖縄に多いとされる。ハンセン病の診療所を運営する県ゆうな協会によると、15年5月1日時点で治療を受けた県内の非入所者は約500人おり、うち約400人が提訴していないとみられるという。
 非入所者は病気を隠しながら生活してきたため、賠償金を受け取るのに必要な提訴をしない人が多い。その遺族も声を上げることができないでいる。そういう状況に追い込んだのは国である。
 国の違法な隔離政策によって患者やその家族は社会の偏見にさらされ、差別的扱いを受けてきたのである。非入所者の遺族を把握する難しさや20年の時効を理由に、国が救済自体を打ち切ることは許されない。
 隔離政策の違憲性を認めた01年5月の熊本地裁判決(確定)を受けて、小泉純一郎首相(当時)はハンセン病問題の「全面的な解決を図る」と約束している。
 「全面的な解決」が実現するまで、国は救済に向けた取り組みを続ける責任がある。救済の道を閉ざすことがあってはならない。国は新たな措置を講じるなどし、隔離政策の被害者全員への補償責任を全うすべきだ。