<社説>次期学習指導要領 理念実現への環境整備を


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 掲げた理念は国民の賛同を得られるかもしれない。しかし、理念を実現するための環境が教育現場に整っているとは言い難い。

 文部科学省は小中学校の次期学習指導要領の改定案を公表した。各教科で「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善を促している。
 教員が一方的に指導するのではなく、児童生徒が主体的、能動的に授業に参加する「アクティブ・ラーニング」の考え方を取り入れている。今回の改定の柱をなすものだ。
 県内教育関係者の間でも近年、「アクティブ・ラーニング」に関する議論が続いている。次期学習指導要領に理念が生かされることは評価できる。問題は学校現場に余力があるかということだ。
 改定案では小学3、4年で外国語活動を始め、5、6年で英語を教科化する。3~6年で授業時間が週1こま増える。文科省は15分程度の短時間学習の設定や夏休み短縮など弾力的な時間割の編成を求めるが、学校現場の実情に照らしても、実現性が問われよう。
 教員の多忙が指摘されて久しい。沖縄でも学力向上対策などさまざまな業務に追われている。「子どもの貧困」問題への対処も急務だ。正規教員率の低さも課題となっている。厳しい環境の中で授業の「量」「質」双方の向上を求めるのは並大抵のことではない。
 次期学習指導要領で高い理念を掲げる以上、文科省は実現に向けた環境整備の方策を示すべきだ。現場任せではいけない。正規教員の拡充、高い技量を持つ教員を育成するための研修が必要だ。
 改定案の分量が現行の約1・5倍に増えたことも気掛かりだ。文科省は「画一的指導を求めるものではない」と説明するが、授業のマニュアル化につながらないか。教員の創意工夫を阻害することがあってはならない。
 改定案の中学社会の歴史的分野で、中世日本における琉球の国際的役割を取り扱う際に「琉球の文化についても触れること」との文言が追加されたことは評価したい。日本文化の多様性を学ぶ契機となる。
 小中学校社会で竹島(島根県)、尖閣を「固有の領土」と初めて明記した。特に尖閣については「領土問題は存在しないことも扱う」と記述した。政府見解を踏襲したものだが、近隣諸国との摩擦を生まないか注視しなければならない。