<社説>辺野古和解1年 司法の不正義あらわに


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 県が名護市辺野古の埋め立て承認を取り消したことを受け、政府が県を相手に起こした代執行訴訟で、双方が和解してから1年がたった。その後、承認取り消しを巡る不作為の違法確認訴訟で、国が勝訴する最高裁判決が出た。

 県は判決を受けて承認取り消しを取り消した。このため国は昨年末から新基地建設工事を再開している。
 1年でたどった経緯をみると、福岡高裁那覇支部の多見谷寿郎裁判長が代執行訴訟で判決を下す前に、異例ともいえる和解勧告をした本当の理由が浮かんでくる。辺野古移設を進める国側に、有利に物事が進むよう仕向けるためだったとしか思えない。
 多見谷裁判長は和解勧告で、和解後に不作為の違法確認訴訟が提起された場合、判決には国と県双方が応じることを求めた。
 そもそも代執行訴訟は国が敗訴する可能性があるとみられていた。国と県が対立した場合、段階的な手続きを講じるべきだったが、国は他の手段を経ずに、いきなり最も強権的な最終手段の代執行を求めたからだ。和解勧告は国に「このまま進めば敗訴だ」と警告し、もう一度やり直して段階を踏むよう促したとみる方がすっきりする。
 そして国は和解成立から3日後に、是正の指示という段階を踏む。県が不服として審査を申し出た国地方係争処理委員会が適法の有無を判断しなかったため、国は不作為の違法確認訴訟を提起した。まさに国は順序を踏んで手続きをやり直したのだ。
 違法確認訴訟で多見谷裁判長は県に再び判決に従うかを問い掛けた。この裁判には強制的な執行力がないため、県が判決に従わずに承認取り消しを取り消さない選択も可能だったからだ。
 知事が従う意向を示したことを受け、多見谷裁判長は高裁判決で「なかなか答えてもらえず心配していたが、最後に知事が言ってくれてほっとした。ありがとうございます」と述べた。
 県敗訴を告げる言い渡しの後、知事に礼を述べたのだ。判決の権限以上の対応を取るよう念を押す裁判官など、どこにいるというのか。
 和解からこの1年、司法が国の手先と成り下がった不正義で醜い姿を嫌というほど見せつけられた。そして工事はどんどん進んでいる。県は建設阻止のため、承認の撤回など、次の一手を急ぐ必要がある。