<社説>残業月100時間未満 「過労死ゼロ」に反する

 「過労死ゼロ」の目標が大きく後退する。労働者側の連合と企業側の経団連が繁忙期の残業上限「月100時間未満」で事実上合意したが承服し難い。上限を大幅短縮する議論を重ねるべきだ。

 安倍晋三首相の「月100時間未満」の提案を連合、経団連の両会長が受け入れた。互いの面目を優先した政・労・経トップの政治決着の色合いが濃い。しかし内容は連合・労働側の大幅譲歩に近いのではないか。
 議論のたたき台となった「最大月100時間」の政府案に、連合の神津里季生会長は「到底ありえない」と拒絶の姿勢だったはずだ。それが100時間を1秒でも切ればよい「100時間未満」を受け入れるのは不可解だ。
 2015年度に労災認定された過労死96件のうち、残業が月100時間未満は54件に上る。月100時間未満でも過労死は起きる。これを了とするのは政府、労組、経済界挙げて「過労死しても仕方がない」とするのに等しい。
 厚生労働省が労災認定基準とする「過労死ライン」は「月100時間、2~6カ月平均月80時間超」だ。今回合意した特例の上限は「月100時間未満、2~6カ月平均月80時間」で、いずれも「過労死ライン」すれすれだ。
 経済界の「過労死ライン」すれすれの労働力確保の要求に政府が寄り添い、連合側が押し切られた印象を拭えない。
 政府はこれを受け労働基準法改正に着手する意向だ。しかし過労死の遺族は猛反発している。
 過労自殺した電通女子職員の母親は「遺族として強く反対する」と言明し、「長時間労働は健康に有害と政府は知っていて、なぜ法律で認めようとするのか。繁忙期なら命を落としてもよいのか」と批判している。
 政府、連合、経団連は遺族の訴えを真剣に受け止めるべきだ。
 現行の労基法は労使の三六協定と特別協定で残業時間が事実上制限のない青天井となっている。
 政府は改正労基法で「年最長720時間以内」の上限も設ける方向だ。連合は月、年の上限規制の立法化を歓迎するが、手放しでは喜べない。現行の厚労相・大臣告示は残業時間を「年360時間」としており、その2倍にも及ぶからだ。
 今春闘で残業規制は労使の大きな論点となろう。「過労死ゼロ」の目標を見失ってはならない。