<社説>GPS捜査違法 人権侵害防ぐ厳格な基準を


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 人権を脅かす捜査に警鐘を鳴らす判決だ。科学技術の進展に伴う捜査手法の多様化からどう人権を守るか厳格な基準が求められる。

 捜査対象者の車に衛星利用測位システム(GPS)端末を取り付ける捜査手法について、最高裁大法廷は「プライバシーを侵害し、強制捜査に当たる」との初判断を示し、裁判所の令状がなければ違法だと指摘した。
 GPSを曖昧に運用してきた捜査による人権侵害を明確に否定する妥当な判断だ。判決直後、警察庁は全国の警察に対し、全てのGPS捜査を控えるよう通達を出した。
 警察庁の坂口正芳長官は会見で「これまで取り組んできた(GPS捜査以外の)いろいろな手法を駆使しながら対応していく」と述べた。警察は判決を厳粛に受け止め、過去の人権侵害を反省すべきだ。
 連続窃盗や組織的薬物、誘拐などの事件捜査で、警察はこれまで捜査対象者の車やオートバイにGPS端末を無断で取り付けていた。多くの場合、警察は令状を取っていなかった。
 警察庁はこれまでGPSを用いた捜査対象者の追尾を「尾行の補助的な手段」とし、令状が必要ない任意捜査での運用が可能だと判断してきた。この判断が大阪地裁や名古屋地裁で争点となった。
 最高裁は今回、警察庁の姿勢を否定した。GPS捜査によるプライバシー侵害を重大視したのだ。判決は住居や書類、所持品の不可侵を定めた憲法35条を踏まえ「GPS捜査は、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害する」と述べた。この指摘は極めて重い。人権を制約する捜査で適正な手続きを定めた「令状主義」の趣旨にのっとり、恣意(しい)的な捜査に歯止めをかけたのだ。
 最高裁判決はさらに現行法上の令状による対応にも疑義が残ると指摘した。GPS捜査を継続するならば「憲法などに適合する立法的な措置が講じられることが望ましい」とし、新たな法整備の必要性を指摘した。
 科学技術に培われた新たな捜査手法が迅速な容疑者逮捕をもたらし、犯罪抑止につながる側面はあろう。もちろん人権侵害があってはならない。厳正な基準を明記した法整備は必要だ。
 法整備には慎重な国会審議と国民的合意が不可欠だ。拙速な法制定によって人権侵害を助長するような事態は許されない。