<社説>「集団自決」後援拒否 教育庁に史実伝える責任


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 「集団自決」(強制集団死)に関するパネル展を企画した「9・29県民大会決議を実現させる会」(仲西春雅世話人)に対し、県教育庁が後援依頼を断っていたことが分かった。

 教育庁は断った理由を「議論のある問題で特定の立場をとることはできない」としている。だが「集団自決」に関する議論であるなら、焦点は日本軍による強制や「軍命」といった背景を教科書記述に復活させ、沖縄戦の教訓を次代に伝えることであるはずだ。「集団自決」の有無といった議論であるはずがない。
 実現させる会は「教科書に真実を」と訴え、子どもたちに歴史の事実を伝えようと活動してきた団体だ。それを否定するのであれば、教育行政をつかさどる機関としての存在意義を疑われる。
 実現させる会は教科書検定で「集団自決」の日本軍の強制に関する記述が削除されたことに抗議する県民大会を契機に発足した。
 2007年の県民大会決議は「『集団自決』が日本軍による関与なしに起こり得なかったことが紛れもない事実」であることを伝え、戦争を再び起こさないことを教えることが現代に生きるわれわれの「重大な責務」としている。
 大会前には県議会が2度、41市町村議会全てで同様の趣旨の意見書を可決した。大会には仲井真弘多知事、翁長雄志那覇市長、仲村守和県教育長(いずれも当時)も参加した。議論があるどころか、「集団自決」に関する歴史の事実を伝えることは県民の総意なのだ。
 軍命の有無を教育庁が疑問視しているのであれば、これも事実誤認である。座間味・渡嘉敷両島での「集団自決」を巡り、大江健三郎さんの「沖縄ノート」の記述について争った「大江・岩波裁判」は一審、二審とも軍の関与を認めた。08年の大阪高裁判決は「日本軍の深いかかわりを否定できず、軍の強制、命令と評価する理解もあり得る」とし、最高裁も一、二審の判断を支持し、軍関与は確定している。
 全国各地で同様の問題は起きている。共通するのは安全保障や憲法、原発など政権批判につながりそうな催しは自治体などが避けることだ。市民が意思表示する自由を担保し、議論があるのであれば、積極的に理解を深める手助けをするのが教育行政の役割だ。教育庁は歴史の事実を後世に伝える重要性を再認識すべきだ。