<社説>核兵器禁止条約交渉 日本は国際社会を裏切った


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 日本政府は被爆者の願いを踏みにじり、国際社会の期待も裏切った。そう断じるほかない。核兵器の開発、実験、使用などを禁止する「核兵器禁止条約」の第1回制定交渉に日本は参加しなかった。

 高見沢将林(のぶしげ)軍縮大使は「核保有国が参加しない形で条約を作れば、保有国と非保有国の分断がいっそう深まる」と交渉不参加の理由を述べている。
 理解に苦しむ。核兵器廃絶を巡っては、核保有国と非保有国の対立が現に進んでいるのである。
 核保有国も参加して核軍縮を議論した2015年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、最終文書を採択できないまま決裂している。核軍縮が進まない状況にいらだちを募らせた非保有国が主導して16年12月、国連総会で113カ国が賛成して、核兵器禁止条約の交渉開始が決まったのである。
 日本は「核兵器なき世界」を求める各国の声の重みを受け止め、対応すべきだった。だが、日本は米英仏ロなど35カ国とともに核兵器禁止条約に反対した。
 唯一の被爆国である日本がなすべきは、核保有国の側に付くことではない。国際社会が日本に期待するのは「核兵器なき世界」を主導し、対立する核保有国と非保有国の「橋渡し役」を積極的に担うことである。
 核兵器廃絶を求める一方で、安全保障を米国の「核の傘」に依存する矛盾した姿勢が日本の一貫性のない対応に表れている。
 核実験や弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮の脅威を強調することで、核兵器を正当化するようなことは被爆国として厳に慎むべきである。
 核兵器の非人道性を訴え、「核の傘」を畳むことを世界に働き掛けていくことこそが日本の果たすべき役割であり、国際社会が日本に期待することである。
 安倍晋三首相は昨年8月、広島市で開かれた原爆死没者慰霊式・平和祈念式で「『核兵器のない世界』に向け、努力を積み重ねる」とあいさつしている。その言葉に偽りがないならば、あらゆる機会を利用して「核兵器なき世界」の実現に努力するのが筋だ。
 核兵器禁止条約を否定するようでは「核兵器なき世界」の実現は遠のく。核兵器廃絶の行き詰まりを打破するため、日本は第2回交渉から参加し、制定交渉を主導すべきだ。