<社説>楚洲のクイナ激減 全県的な野犬対策必要だ


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 野犬の徘徊(はいかい)によって、やんばるの貴重な生物が危機にひんしている。私たちの日常生活のマナーにも原因がある。希少生物を保護するため、抜本的な野犬対策を急がなければならない。

 国頭村楚洲で確認されたヤンバルクイナの数が、直近の4年間で約10分の1にまで激減していることが環境省やんばる野生生物保護センターの調査で分かった。専門家は野犬の徘徊が激減の原因とみている。
 楚洲ではヤンバルクイナやケナガネズミなどの希少生物が野犬にかみ殺される事例が確認されている。野犬の徘徊によって、やんばるの生態系が侵されているのだ。由々しき事態だと言わねばならない。
 楚洲と国頭村安田では近年、数十匹の野犬の群れが集落周辺を徘徊しており、地域住民は役場に対策を求めている。飼い犬が山中に捨てられ、野犬化した可能性が指摘されている。事実なら、犬を飼う側のマナーの欠如がやんばるの生態系を脅かしていることになる。
 調査は楚洲の県道70号に設定された「交通事故防止対策重点区間」で実施された。1年間に確認されたヤンバルクイナの鳴き声の合計が2013年度の275羽から16年度は29羽に減った。この区間はこれまで他の地域に比べ、6、7倍のクイナが確認されていた。
 北部全域のヤンバルクイナの推定個体数も、15年度の1720羽から16年度は1370羽に減った。野犬によるクイナ被害は楚洲以外にも広がる可能性がある。
 野犬徘徊の問題を放置することはできない。世界自然遺産登録に向けた国際自然保護連合(IUCN)の調査にも影響が出る恐れもある。貴重な生態系が保存されているか、IUCNは厳格に審査する。野犬によるクイナ被害が続けば、登録はままならない。
 国頭村内で対策を進めても、村外から犬を捨てに来る県民が減らないのでは解決にはならない。飼い主のマナー改善を促す広報活動を全県的に徹底してほしい。犬や猫の殺処分数は全国ワーストの水準にある。動物の命を大切にする観点からも是正しなければならない。
 財政的な対応も求められる。国頭村は単独の取り組みを実施するが、野犬徘徊の原因が村外にもある以上、国や県の強い財政支援も必要だ。やんばるの貴重な動物を守るための措置を考えたい。