<社説>震災いじめ 人権侵害を許さぬ社会に


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 東京電力福島第1原発事故の避難者に対するいじめを放置してはならない。いじめは、原発事故で被害を受けた避難者にさらなる痛みを強いる。国民全体で避難者を支えていくことを誓いたい。

 文部科学省の調査によると、原発事故で福島県から県内外に避難した児童生徒へのいじめは、今年3月までに199件あった。東日本大震災や原発事故に起因・関連するいじめは13件だった。
 調査結果からは、児童生徒らが深刻ないじめにさらされていたことが分かる。「福島へ帰れ」「放射能が付くから近づくな」と暴言を吐かれたり、「放射能」と呼ばれたりした子どもたちが、心に大きな傷を負ったことは想像に難くない。
 多くのいじめは解消されているという。一方で、いじめから逃れるために被害者が転校せざるを得なかったり、福島出身を隠したりする状況もある。あまりにも理不尽だ。加害者がいじめを深く反省した上で謝罪し、被害者が完全に立ち直ることなしには、真のいじめ解消とは言えない。
 小学6年だった2011年に、関東の小学校に転校した女子高生は、同級生の母親からたばこの煙を顔に吹き掛けられ「福島に帰れよ」と言われたことが今年3月、明らかになっている。
 女子生徒の父親も、11年に別のきょうだいの授業参観に出席した際、保護者から「福島に帰れ。何しに来たんだ」と暴言を浴びせられたという。加害者は同級生らだけではない。大人がいじめているケースもあるのだ。
 ふるさとに戻ることができない不安な中で生活する避難者に寄り添うことが、健全な社会の在り方である。それに逆行するいじめや偏見、差別を根絶することが求められている。
 文科省調査が震災いじめを全て網羅しているとは限らない。いじめに苦しむ児童生徒が漏れている可能性がある。全ての被害者を救うとともに、いじめの未然防止にも強力に取り組みたい。
 被害者の友達が加害者に注意したことで、いじめがなくなったケースもある。いじめに気付いた周囲が即座に対応する必要もある。
 いじめは重大な人権侵害である。それを許さない社会の実現は、国民一人一人の責務である。そのことを強く自覚し、行動に移したい。