<社説>共謀罪実質審議 憲法違反の悪法は廃案に


この記事を書いた人 琉球新報社

 犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」法案が衆院法務委員会で実質的に審議入りした。

 この間の政府答弁は説得力がない。かつて3度廃案になった。監視社会につながりかねないという本質は変わらない。テロ対策という印象操作に惑わされず、かつての治安維持法を想起させる悪法は廃案にするしかない。
 まず法案新設の根拠がおかしい。政府は、締結を目指す国際組織犯罪防止条約(TOC条約)の締結のために共謀罪法案が必要だと説明している。
 しかし、経済協力開発機構(OECD)に加盟する35カ国のうち、新たに共謀罪などを創設したのは4カ国で、ほとんどは既存の国内法で対応している。
 日弁連が指摘するように、日本には「予備」「陰謀」「準備」の段階を処罰の対象とする立法が既になされており、新たな立法をせずに締結しても条約の趣旨や目的に反しない。テロ対策について、既に国内法上の手当ては十分になされている。
 対象犯罪の数の説明も矛盾している。今回、対象犯罪を当初の676から277に絞り込んだが、政府が2003~05年に提出した改正法案でも、600以上の犯罪が対象とされた。
 政府は05年に「犯罪の内容に応じて選別することは条約上できない」とする答弁書を閣議決定した。政府はこの条約解釈を盾に引かなかった。しかし、今回は公明党の意見を入れて減らした。条約解釈の変更は過去の説明と整合性がとれない。
 さらに、罪名を言い換えて印象操作している。過去3回の共謀罪法案に「テロ」の文字はない。今回は共謀罪の名称を「テロ等準備罪」に変えている。安倍晋三首相は法整備を経てTOC条約を締結しないと「五輪、パラリンピックを開催できない」と国民感情に訴えた。テロ対策を全面に出せば、支持を得られやすいと計算したのだろうか。
 共謀罪法案は実行行為がなくても犯罪に合意するだけで処罰する。人が集まって話しているだけで容疑者とされるなど、捜査機関が恣意(しい)的に運用する恐れがある。「既遂」を原則とする現行の法体系を根底から崩し、かつての治安維持法に通じる。
 思想及び良心の自由を保障した憲法に反する法案を成立させてはならない。