<社説>琉球美術工芸復元 育成した人材は将来の宝


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 琉球王国時代の美術工芸品の製作技術を復元させる沖縄県の事業で、2016年度の成果7件が県立博物館・美術館に納品された。19年度までに絵画、木彫、石彫、漆芸、染織、陶芸、金工、三線の8分野で65件を復元し、失われた技と心をよみがえらせようという意欲的な取り組みだ。

 王国時代の文化財のほとんどが沖縄戦で失われた。そのような文化財について、研究が進み実物を間近に見られる意義は大きい。そして何よりも、優れた若手の人材が育成されていることは重要だ。将来の文化財の保全、復元の担い手になるとともに、新たな工芸作品の創出など産業振興にも期待したい。
 県立博物館・美術館は県外、海外にも公開し沖縄をアピールしたいと意気込んでいる。学術、教育への活用はもとより、沖縄の魅力をアピールする観光資源としての価値も高い。先人たちの高度な技術や美意識を実感し、それを発信することは、県民の誇りにもつながるだろう。
 この事業は、委託を受けた沖縄美ら島財団が、県外に残されたわずかな現物や文献資料を基に、県内外の約60の工房や作家、研究機関に依頼して最新の科学技術を駆使して進めている。分野ごとに監修者会議を開いて課題を共有し、学術的な裏付けも行っている。三線では演奏家、研究者、製作技術者が集って議論を交わした。
 単年度の一括交付金事業として開始から2年で一定の成果を上げられたのは同財団の長年の蓄積があったからである。1992年の首里城正殿復元直後から、財団では首里城内の展示物となる工芸品の復元に取り組んできた。
 中国皇帝直筆の3枚の扁額(へんがく)から始まり、尾張徳川家伝来の琉球楽器や琉球漆器の復元を手掛け、国王が正月儀礼に使った祭祀(さいし)酒器、尚育王の御後絵(おごえ)も復元製作した。那覇市でも、国宝の玉冠(たまのおかんむり)を忠実に復元して那覇市歴史博物館で展示している。今回の事業の土台には、これらの関係者の研究成果の蓄積と人材育成があることを忘れてはならない。
 大きな課題は、沖縄の将来の宝であるこの人材をどう生かしていくかである。文化財の修復保存にとどまらず、技術の継承をしながら観光や産業の振興につなげることも視野に、関係者の息の長い努力を求めたい。