<社説>子の医療費窓口無料 抜本的対策で貧困根絶へ


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 憲法25条は「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定している。世帯の収入によって、生活に差が出ることは本来あってはならないことだ。だが少なくない人が医療機関での支払いができず、受診機会を奪われてきたのも事実だ。

 県は貧困対策の一環として医療費助成事業に関し、低所得世帯の子どもを対象に現物給付の導入や通院助成を中学卒業まで拡充する案について見直しを検討する。2018年10月にも導入する予定だ。越えるべきハードルはあるだろうが、早期に実現することを願いたい。
 一方で低所得世帯への支援を手厚くするだけでなく、貧困問題の抜本的な解決にも力を入れてもらいたい。所得の底上げだ。県や経済界、関係機関が一体となり誰もが「沖縄で生まれてよかった」と思える社会を実現してほしい。
 現行の医療費助成事業は、世帯年収にかかわらず、窓口で支払った医療費が後に口座に振り込まれる自動償還を採用している。見直し案では対象を低所得世帯、中所得世帯、高所得世帯に分け、低所得世帯に対して現物給付を実施するほか、入院・通院での自己負担もゼロにする。
 NPO法人こども家庭リソースセンター沖縄の與座初美理事長によると、病院に行くお金がないため生後数カ月の赤ちゃんを受診させられない親もいたという。
 現物給付が実現すれば、必要としている子どもに受診機会が平等に与えられる。命を守るためにも重要な施策だ。既に南風原町は現物給付を可能にするため条例を改正して1月1日に施行した。県の見直しを契機に全市町村で同様の措置が取られることも期待したい。
 一方で解決すべき課題もある。所得に応じた区分が適正かどうかや、医療機関の受け入れ態勢などだ。中所得世帯といっても家庭ごとに実態は異なり、一律に区分することで救うべき子どもが見過ごされないか丁寧に対応する必要があるだろう。
 医療機関の受け入れでも救急受診の増加などが懸念される。医師確保など総合的な対策も必要だ。
 沖縄の貧困問題は非正規雇用の多さなど構造的な問題も絡んでいる。医療費助成を手始めとして、所得向上などの課題を一つ一つ克服し、全ての人に「健康で文化的な生活」が保障される制度設計を県には目指してもらいたい。