<社説>米軍属女性殺人事件 一日も早い公判と補償を


この記事を書いた人 琉球新報社

 米軍属女性暴行殺人事件の発生から1年が経過したが、初公判までの見通しが立っていない。

 被告が外国人のため公判前手続きに時間がかかっているという。一日も早い初公判と遺族への被害補償を強く求める。
 同時に、基地外で罪を犯した米兵らが基地内に逃げた場合、日本側が起訴するまで原則的に身柄が引き渡されない特権の是正など、日米地位協定を抜本的に見直すべきだ。
 殺人や強姦(ごうかん)致死などの罪で起訴された元米海兵隊員で米軍属の被告は、逮捕前の県警の調べに対して殺害をほのめかす供述をしていた。だが、逮捕直後から黙秘に転じ、動機など事件の全容解明には至っていない。
 公務外の事件・事故で、米軍人・軍属が被害者から賠償請求を迫られた場合、支払い能力がなければ日米地位協定に基づき米国が慰謝料を払う。
 しかし、支払いまで長時間を要しているのが通例だという。今回の場合、刑事裁判のめどが立っていないため、被害者救済が遅れている。
 遺族側代理人の弁護士によると、今回の場合、日米地位協定に基づき補償するのか不透明で「沖縄防衛局に問い合わせているが全く回答がない」という。日米両政府は最大限の対応をすべきだ。
 事件を受け、日米両政府は今年1月、日米地位協定で身分が保障される軍属の範囲を明確にする補足協定を締結した。政府は補足協定締結を「画期的」(岸田文雄外相)と自賛した。しかし、補足協定は、圧倒的多数の米兵に対する事件事故の抑止につながる実効性は、ほとんどないのではないか。
 さらに、補足協定で軍属の対象から外れた者が事件を起こし、基地内に逃げ込んだ場合はどうなるのか曖昧である。地位協定の対象外になった容疑者の逮捕に米軍は協力すべきだ。
 事件後の昨年6月、政府は「沖縄・地域安全パトロール隊」を結成した。結成当初から今年3月末時点で米軍関連犯罪の通報はなかった。果たして抑止効果はあったのだろうか。
 むしろ、被害者の父親が書面で心境を明かしたように、事件は「沖縄に米軍基地があるがゆえに起こる」のであり「一日でも早い基地の撤去」こそ最大の再発防止策である。