<社説>憲法施行70年 普遍的価値を後世に 「平和主義」変えてならぬ


この記事を書いた人 琉球新報社

 日本国憲法が施行されて70年を迎えた。この間、戦争放棄を定めた9条が改正されずにきたことを誇りたい。

 一方で、憲法の危機を強く危惧せざるを得ない。安倍晋三首相が憲法改正に意欲を示し、改憲勢力が国会で改憲発議に必要な3分の2を占めたことが大きい。
 だが、北朝鮮情勢が緊迫化する中、恒久平和を希求する憲法の重みは増している。憲法を改正することは新たな「戦前」につながりかねない。私たちには、憲法の普遍的価値を後世に引き継ぐ責任があることを深く認識したい。

 外交力強化こそ必要

 安倍首相は憲法改正を目指す超党派議連「新憲法制定議員同盟」の大会で「改憲という大きな目標に向かって、この節目の年に必ずや歴史的一歩を踏み出す」と表明した。憲法99条は大臣や国会議員に、憲法を尊重し擁護する義務を課している。改憲に前のめりな安倍首相の姿勢はこれに反する。
 衆参両院が開いた憲法施行70周年の記念式典で、安倍首相は「北朝鮮による核・ミサイル開発をはじめ、わが国を取り巻く安全保障環境の悪化」を挙げて「私たちには憲法の基本原則の普遍的価値を心に刻みながら、新しい時代の理想の姿を描いていくことが求められている。それが時代の要請なのではないか」と述べ、憲法改正の必要性を強調した。
 憲法の普遍的価値に触れる一方で、軍事力には軍事力で対抗するとの安倍首相の意思が透けて見える。これが「時代の要請」であるはずがない。
 憲法に示された「平和主義」とは、国家に対して戦争・武力行使を禁じる一方で、紛争を平和的手段で解決するという積極的平和主義そのものである。
 北朝鮮と米国は互いに軍事的挑発を繰り返し、日本は「米艦防護」に乗り出した。この状況を是認することは、憲法の「平和主義」に反するだけでなく、平和国家としての戦後日本の歩みを否定することになる。憲法の理念に従い、軍事衝突回避を粘り強く働き掛ける日本の外交力強化こそが「時代の要請」である。
 改憲議論の中で、教育無償化が浮上している。日本維新の会の「幼児期から大学まで無償」を、自民党も憲法改正の具体的項目の一つとして検討している。
 だが、改憲せずとも法改正や特別法制定で教育無償化は実現できる。しかもその方が早い。そうしないのは、国民受けする「教育無償化」を改憲の突破口にする狙いがあるということだ。その先に9条改正があるのは間違いない。

 沖縄にも完全適用を

 沖縄が憲法の下に入って45年になる。だが、憲法の「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」の基本原則が沖縄で完全に生かされているとは言い難い。
 その要因は国土の0・6%しかない沖縄に在日米軍専用施設の70・6%が集中し、県民が過重な基地負担を押し付けられていることにある。沖縄ではいまだ憲法14条の「すべて国民は法の下に平等」を実感できていないのである。それを放置することが許されるはずがない。
 憲法と同じく、地方自治法も施行70年の節目を迎えた。「国民主権」など憲法の理念を住民に身近な地域で実践するための法律である。1999年に成立した地方分権一括法は、戦後一貫して「上下・主従」だった国と地方の関係を「対等・協力」と明確に位置付け直した。
 だが、沖縄の米軍基地問題に対する国の姿勢は、憲法の理念を具現化する分権一括法に反し、沖縄をいまだ「国の下」に置く旧態依然とした対応である。翁長雄志知事の辺野古新基地建設阻止の公約は、安倍政権に踏みにじられ、司法がそれを追認している。
 今、なすべきことは改憲ではない。憲法を一つ一つ誠実に守ることである。憲法の精神を沖縄に完全適用することを強く求める。