<社説>首相改憲表明 現憲法の理念実現が先だ


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 安倍晋三首相が憲法記念日の3日、改憲を実現し、2020年の施行を目指す方針を表明した。改定内容として、戦争放棄などを定めた憲法9条に自衛隊の存在を明記する文言を追加することや、教育無償化などを挙げた。

 「憲法改正は自民党の立党以来の党是だ」と述べる安倍首相にとって、国会での憲法論議は遅々として進んでいないと見えるのだろう。しかし、あと3年で憲法改定まで進むというのは拙速に過ぎる。
 9条は条文上、あらゆる武力行使を禁止し、自衛隊の活動に一定の歯止めをかけてきた。しかし集団的自衛権の行使容認という憲法解釈の変更で事実上、自衛隊の任務は国際紛争の場にまで広がった。さらに自衛隊が明文化されれば、武力行使の歯止めは利かなくなるのではないか。
 共同通信の全国世論調査でも日本が戦後、海外で武力行使しなかった理由について「9条があったからだ」とする回答は75%に上った。国民に一定評価されている9条改定の機運が熟したとは思えない。
 安倍首相が同時に、高等教育の無償化を理由に挙げたことも解せない。教育の無償化は憲法を改定せずともできることだ。現に民主党政権は高校の無償化を実現させた。自公政権になってから所得制限を設けたため、安倍首相が言う「全ての国民に真に開かれた」ものではなくなったのだ。
 共同通信調査では、安倍首相の下での改憲に51%が反対し、賛成は45%だった。
 本紙の世論調査でも、戦争放棄や戦力不保持を定めた9条を「堅持すべきだ」が44・2%で最も多く、「改正すべきだ」の21・7%を22・5ポイント上回った。県内では9条堅持を望む声が高い。
 憲法を変えるよりも先に行うべきことがある。
 先月の衆院憲法審査会では4人の参考人全員が、沖縄県に米軍基地負担が集中し、政府と対立する現状を問題視して、それぞれ異なる道筋を示しながら、沖縄の自治権強化を求めた。
 地方自治を保障した現憲法下でも、基地が偏在し、沖縄の自治がないがしろにされている。参考人として出席した学識者全員が現状を変えるよう促したのだ。
 安倍首相は改憲を唱える前に、現憲法の平和希求や地方自治の理念を実現するよう努力すべきだ。