<社説>高齢者抗がん剤指針 総合的支援策が必要だ


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 厚生労働省が高齢者に対する抗がん剤治療の指針作りに乗り出した。治療効果を探る研究が進むことを期待するが、年齢を理由に治療の選択肢を狭める指針であってはならない。

 十分な情報提供がなされた上で、本人の希望に沿った治療が納得して選べるよう、総合的に支援する仕組みが必要だ。
 がん患者の高齢化が進んでいる。国立がん研究センターによると、2012年に新たにがんと診断された約86万人のうち、75歳以上は約36万人と推計されている。
 がん治療の目標は、患者が治癒し、あるいは延命することにある。高齢者の場合は治療による「生活の質」の悪化も重要視される。
 がんセンターは07~08年に、がんセンター中央病院を受診した約7千人のがん患者を調べた。肺がんでは、75歳未満で抗がん剤治療による明らかな延命効果が見られたが、75歳以上は抗がん剤治療を受けた患者と受けていない患者の生存期間に大きな差はなかった。
 ただ、75歳以上の患者は19人と非常に少ないため、科学的に抗がん剤の効果がないとは言い切れない。このため今回、全国の患者の情報を集約する「がん登録」の制度などを活用して大規模調査を進め、指針に反映させる。認知症のがん患者の意思決定を支援する仕組み作りも検討している。
 抗がん剤は、がん治療に効果を発揮するが、痛みや吐き気といった副作用を伴うことが多い。
 高齢者の場合、副作用からの回復も遅れがちだという。ただし既存の抗がん剤は使えないが、副作用の少ない新薬なら十分治療に耐えられる場合もある。
 副作用による全身状態の悪化を考慮して、薬物療法を実施せず、体のつらい症状や、苦しみを和らげる緩和ケアを行い、生活の質を維持するという選択もある。
 年齢で抗がん剤投与の可否を決めるような指針は適切でない。高齢で元気な人もいるし、疾患によって状況は異なる。ケース・バイ・ケースで判断できるようにすべきだ。
 どのような治療を選ぶかは本人の意思を大切にしなければならない。高価な抗がん剤の使用は医療費を押し上げているという指摘もある。だが、経済的な思惑で議論してはならない。高齢者の抗がん剤治療の在り方を考えるため、国民的な議論が必要だ。