<社説>赤ちゃんポスト 養育へ行政の関与が必要だ


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 親が育てられない赤ちゃんを匿名で預け入れる国内唯一の施設「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)が運用開始から10年になった。

 預かった赤ちゃんに家庭的な養育環境を与えられるか、子どもの「出自を知る権利」をどう確保するかなど課題はある。しかし一民間病院が2015年までの9年間に125人の命を守ったことの意義は大きい。母親が命の危険を顧みず自力で出産するような事態を防ぐと共に、今後は国や自治体も課題解決のための役割を担うべきだ。
 「捨てられる命を救う」という理念で慈恵病院(熊本市)が赤ちゃんポストを始めたのは07年5月。貧困などを理由とした中絶・遺棄から命を救う緊急避難先と位置付けた。匿名で預けることができ、母親らの秘密は守られる。
 当初、「安易な育児放棄」など批判も相次いだ。第1次政権当時の安倍晋三首相は「大変抵抗を感じる」と述べ、国も距離を置いた。
 しかし子どもは全国各地から預けられ125人中、104人が生後1カ月未満の新生児だった。預けた理由の最多は「生活困窮」で、次いで「未婚」、「世間体・戸籍」。10代の母親も12%いた。
 経済的に厳しい生活の中で妊娠し、未婚や若年出産などで家族や行政にも頼れず思いあまって訪れる女性の姿が浮かび上がる。赤ちゃんポストは小さな命の緊急避難先となってきたことは間違いないが、過渡期の姿だ。
 最大の課題は預かった子どもの養育だが、市によると13年度までに預けられた101人のうち30人は里親や養子縁組による家庭的な環境ではなく、乳児院などの施設で養育されていた。
 出自を知る権利は日本も批准する「子どもの権利条約」で規定され、「アイデンティティーの確立に必要」との考え方がある。
 フランスは病院での匿名出産が認められており、秘密を保って安全に産める。ドイツも匿名出産でき、さらに相談機関に実名で相談することで子どもが16歳になると母親の名前を知ることができる制度がある。
 赤ちゃんポストには貧困だけでなく、母親に育児の責任を負わせる日本的な考え方や社会全体で育児を担う仕組みができていないなどのひずみが表れている。行政が子どもの養育まで関与を強める必要がある。