<社説>宮里藍選手引退へ ゴルフ界の至宝に感謝する


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 プレーや人柄が国民を魅了した県出身者のプロスポーツ選手は、ボクシングの具志堅用高さん以来ではなかったか。女子ゴルフ界の至宝とも称される宮里藍選手の引退表明は、県内外で多くの人に衝撃をもって受け止められた。

 兄でプロゴルファーの優作選手によると、今年1月に引退する意向を家族に伝えたという。31歳での引退を早すぎると惜しむ声も多く聞かれる。
 藍選手が沖縄にとどまらない、日本を代表する女子スポーツ選手であったことに異論はないだろう。世界ランキング元1位、国内ツアー15勝、米ツアー9勝という実績がそれを示している。
 加えてプロとしてのツアー最年少優勝記録(18歳262日)を持つ。勝みなみ選手(鹿児島)の15歳293日に破られるまで、アマチュアとしてもプロツアーでの日本人最年少優勝記録(18歳101日)を持っていた。
 2006年から米ツアーに本格参戦したため国内での生涯獲得賞金は43位だが、1試合平均は約430万円に上る。上位5選手は1試合平均約300万から200万円であり、数字でも強さが際立つ。
 藍選手はプレー以外でも人を引き付けた。強い意志を感じさせる瞳、常に丁寧な受け答え、周囲への感謝を忘れない心配りは、それだけでファンを増やした。快活な笑顔はゴルフに関心のなかった人も魅了した。身長155センチと小柄ながら世界最高峰の米ツアーで活躍したことは、日本だけでなく米国の少女たちにも夢を与えた。
 メンタルが大きな比重を占めるゴルフでは、体格に恵まれなくとも技術と精神力をもって世界で戦えることを示したからだ。勝選手が「憧れ」と語るように、藍選手の登場は国内、海外で後に続く選手を生み出す原動力となった。
 生涯スポーツでもあるゴルフだが、かつては中高年男性のものというイメージがあった。バブル崩壊後の景気低迷でスポンサーが撤退し、人気が陰った時期もあった。
 藍選手の活躍はゴルフ人気の回復だけでなく、若年層をはじめとする競技の底辺拡大にも貢献した。ゴルフ界にとって、まさに「偉大な存在」(上原彩子プロ)だったのだ。
 明らかにされていない引退の理由は29日の会見を待ちたい。今はその決断を尊重し、感謝の言葉を贈るだけだ。ありがとう、そして人生の第2ラウンドでの成功を-。