<社説>米のパリ協定離脱 世界の流れ 止めてならぬ


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 トランプ米大統領が、地球温暖化防止の枠組み「パリ協定」から離脱すると表明した。温室効果ガスの排出量世界2位、歴史的には最多の排出国であるにもかかわらず、世界の現実を顧みない無責任な決定を厳しく批判したい。

 自国のみを考える内向きの思考を、日本を含め各国が非難している。持続可能な地球を残すのは、国際社会が取り組むグローバルな課題だ。協定を批准した中国やインドなどの新興国や欧州各国は既に温暖化対策を着実に進めており、この流れを止めてはいけない。
 トランプ氏の離脱理由は根拠に乏しい。人類が積み上げてきた科学的事実を軽視し、環境問題でもフェイクニュース(偽のニュース)を乱用している。
 トランプ氏は「協定は他国に利益をもたらし、米国の労働者には不利益を強いる」と主張したが、事実誤認だ。AP通信によると、エネルギー省の統計では、米国内の再生可能エネルギー関連の従事者は65万人超で、炭鉱で働く7万5千人よりもはるかに多い。石炭産業は既に競争力を失っている。
 「経済成長と温暖化対策は両立できない」という政権の認識も誤りだ。実際には米の有力企業も脱炭素方針を掲げており、風力発電や太陽光発電は急激に普及している。経済成長しながら温室効果ガスを減らせることは世界の共通認識になりつつある。
 トランプ氏は地球温暖化にも懐疑的だが、海面上昇や異常気象は既に各地で表れている。気候変動が甚大な被害をもたらすと認識したからこそ、200カ国近くがパリ協定に合意したのだ。被害を受けやすい島国や発展途上国では被害が国家の存亡に関わりかねない。現実を冷徹に見詰めるべきだ。
 とはいえ、排出大国の米国が抜けると影響は大きい。とりわけ、米国からの経済援助を前提に協定に参加した途上国は対策が遅れることも予想される。
 日本は「人類の英知に背を向けた」と珍しく米国を批判した。排出1位の中国や3位の欧州連合(EU)は協定履行を進めることを再確認した。国際的機運がしぼみ、後戻りするようなことがあってはいけない。
 規定上、米国が離脱できるのは2020年だ。それまでは協定のルール作りが続く。その場に米国を引き戻すよう、各国は根気強く働き掛けていくことが大事だ。