<社説>道徳教科書採択 決定過程を検証すべきだ


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 決定過程に疑義が生じているのなら議事録などを公開して検証が必要だ。

 2018年度から使用する小学校道徳教科書に、那覇市や浦添市など5市町村でつくる那覇地区の協議会が、他社に比べて愛国主義的傾向の強い教育出版の教科書を採択し、全5市町村教育委員会が使用を承認した。
 県教職員組合那覇支部が採択の撤回などを求める要請書を那覇市と浦添市の教育委員会に手渡した。要請書は同社の教科書が、5年生の教材に安倍晋三首相の写真を文脈と関係なく掲載していることや、国旗・国歌の強調・強制が戦前の「修身」と類似していることなどを挙げている。
 教科書問題に取り組む市民団体「子どもと教科書全国ネット21」は、「どれが正しいおじぎのしかたか」など、戦前の「修身」と同じようなおじぎをさせる「しつけ」「礼儀」の教材が多く取り入れられていると指摘している。
 11年の大津の中2男子いじめ自殺を機に、政府の教育再生実行会が道徳の教科化を提言した。14年に中教審が検定教科書を導入し、記述式で評価する「特別の教科」とするよう答申、15年に学習指導要領を一部改正した。17年度に教育委員会などが教科書を採択し、18年度から全面実施することになっている。
 道徳教育を巡って文部科学省は「考え、議論する道徳」という新しい道徳観を打ち出している。教育出版の教科書のように国旗・国歌の強調や、おじぎの仕方などの礼儀とは道徳観が相反するのではないか。
 国旗・国歌の扱いは道徳の学習指導要領に定められておらず、扱っていない社もあるが、同社は際立って記載が多いという。
 5年生の教科書に安倍首相の写真が掲載されている。現役の政治家であり、政治的中立を求めている教科書検定基準に抵触する恐れがある。
 道徳の学習指導要領にも問題がある。1、2年生用で、郷土の文化や生活に親しみ、愛着を持つこととされている。そもそも郷土愛の概念が曖昧すぎる。国家にとって都合のいい規範の押し付けになりかねない。
 戦前、「教育勅語」の忠君愛国の精神が「修身」教科書を通じて子どもたちに徹底され、国民を戦争にかりたてた。日本国憲法は、その反省から生まれたことを忘れてはならない。
 今回、那覇地区の教科書採択地区協議会が非公開で行われたため、決定過程が不透明になっている。東京都のように、教科書を決める協議会を一般公開する動きもある。
 那覇市教委は教育出版の教科書が愛国主義的な色が強いと指摘されている点について「採択地区協議会で慎重に検討され、総合的に判断された結果」と説明している。それなら、審議会の設置基準や審議委員、議事録などの審議過程を速やかに公開すべきだ。