<社説>ICAN平和賞受賞 核依存脱却につなげよう


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 2017年のノーベル平和賞はスイス・ジュネーブに拠点を置く国際非政府組織(NGO)、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)に授与されることが決まった。

 米国、ロシアなど核保有大国の軍縮停滞、北朝鮮に象徴される核拡散の脅威など、ノーベル賞委員会が授賞理由で「核が使用されるリスクがこれまでになく高い世界」にある今、核廃絶を追求するICANの受賞を歓迎したい。
 ICANの平和賞受賞は同時に、核に依存した安全保障政策から脱却しようとノーベル賞委員会が世界に発したメッセージでもある。唯一の被爆国である日本は、その先頭に立つ責務がある。
 ICANは欧米、日本を含むアジア、アフリカなど100カ国超の約470団体でつくる連合体だ。授賞理由のうち特筆されるのが、今年7月に国連で採択された核兵器禁止条約を推進したことだ。
 核兵器の開発や保有、使用を全面禁止する初めての国際法は、広島、長崎の被爆者に寄り添い、実現した。前文には「ヒバクシャの受け入れ難い苦しみに留意する」との一文が盛り込まれている。
 ICANのフィン事務局長は長崎、広島の被爆者が体験を語り継いだことが、核廃絶運動に「非常に役立った」と評価し「(授賞式に)被爆者もいてほしい」と語った。今回の平和賞はICANに参加する世界中のNGOだけでなく、日本の被爆者にも与えられたといえる。
 「絶対悪」である核兵器をこれ以上拡散させず、一刻も早く廃絶への道筋を描けるよう各国政府、NGOが連携して取り組むよう期待したい。
 一方で残念なのは、米国、ロシアといった核保有国だけでなく、被爆国である日本の反応が鈍いことだ。
 核兵器禁止条約は122カ国・地域の賛成を得たが、米ロ、日本は参加していない。
 安倍晋三首相はカズオ・イシグロ氏のノーベル文学賞受賞への祝福談話を首相官邸ホームページにその日のうちに掲載したが、平和賞へのコメントは発表翌日の正午になっても掲載されていない。
 日本にとっても転機となり得る平和賞への反応の鈍さは、米国の「核の傘」に依存する日本政府の安全保障政策が背景にあると考えられる。
 だが日本が国際社会で果たすべき役割は、被爆国として同盟国である米国をはじめ、世界に核兵器の非人道性を伝えることだ。核廃絶へのリーダーシップを発揮することがあるべき姿だ。
 核兵器は一度使われれば、人類に想像を絶する惨禍をもたらす。広島、長崎の悲劇を繰り返してはならない。
 ICANは英語で「私はできる」という意味になる。平和賞受賞は、核廃絶への機運を世界で高める契機でもある。核廃絶を遠い世界のことでなく自らのこととして考えたい。「WE CAN」(私たちはできる)と信じる。