<社説>防衛費GDP2% 軍事大国への道、撤回を


社会
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 軍事大国につながる防衛費の倍増を決して認めるわけにはいかない。歴代政権が堅持してきた専守防衛からも逸脱している。

 自民党の安全保障調査会と国防部会が、将来的な防衛費の参考値として「対国内総生産(GDP)比2%」とする政府への提言をまとめた。政府が年末に見直す「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画(中期防)」に向けた提言に明記している。
 北大西洋条約機構(NATO)が対GDP比2%を目標としていると例示した上で「必要かつ十分」な予算確保を求めている。
 防衛費は第2次安倍政権発足以来、6年連続で増額され、4年連続で過去最多を更新してきた。2018年度は5兆1911億円にも達している。それでもGDP比1%程度で推移してきた。
 生活保護費など社会保障費が切り詰められる一方で、防衛費の突出ぶりは甚だしい。今後も高齢化が進み、40年度には社会保障費が約190兆円に膨らむとの試算もある。
 国家財政が極めて厳しい中、防衛費に今の倍の10兆円を充てるというのでは、国民の理解は得られまい。社会保障費を削り、防衛費を聖域化することは許されない。
 まさに「バターより大砲」の提言で、国民生活よりも軍備を優先させる誤った政策である。無責任極まりない。
 安倍晋三首相は昨年2月の国会で「1%枠は既に閣議決定で撤廃している」と答弁した。14年の集団的自衛権の行使容認、15年の安保関連法成立と合わせ、自衛隊を強化し軍備増強に前のめりとなる政権の姿勢は露骨だ。
 提言は「敵基地攻撃能力の保有検討」も盛り込んだ。
 18年度予算では既に、航空自衛隊の戦闘機に搭載する長距離巡航ミサイル3種類の導入費用を計上している。北朝鮮や中国にも届く射程で、その基地を攻撃できる。専守防衛とは疑わしい。周辺国との緊張を高めてしまう。
 「多用途運用母艦」の導入も明記した。当初の「多用途防衛型空母」から「空母」の表現を削除したが、戦闘機を載せた艦艇は他国からは空母としか見なされない。自衛の範囲をはみ出している。
 自民党や政府は防衛力増強の理由として、北朝鮮や中国の脅威を持ち出すが、外交で解決しようとする強い決意と行動が見えてこない。
 12日の米朝首脳会談では朝鮮半島の完全非核化で両国首脳が合意しており、対話に向けて歴史の歯車が動きだした。日本は軍事力の強化だけに頼らず、国際情勢を冷静に見据えるべきだ。
 東アジアが緊張緩和に向かう中で日本が蚊帳の外に取り残されてはいないか。
 安全保障は軍事力だけでは達成できない。地道な外交努力が何よりも重要だ。
 財政的にも安全保障上も国民生活を危うくする自民党の提言は、撤回するしかない。