<社説>原爆投下73年 核の傘脱し条約批准を


社会
この記事を書いた人 琉球新報社

 核兵器による惨禍を思い起こし、核廃絶と平和を誓う日が巡ってきた。広島はきょう、長崎は9日に原爆投下から73年を迎える。

 昨年7月の核兵器禁止条約採択から1年が過ぎた。唯一の戦争被爆国でありながら、日本はいまだに反対を貫いている。政府は核抑止力の呪縛にとらわれ続けるのではなく、条約参加を模索すべきだ。
 世界はこの1年で、核廃絶に向かう道と、背を向ける道の相反する動きの中にある。
 前者は、核禁止条約の原動力となった核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のノーベル平和賞受賞や、米朝首脳が朝鮮半島の非核化で合意したことだ。後者はトランプ米政権の核戦略指針見直しやロシアの核兵器開発など軍拡の加速化だ。
 互いに挑発と威嚇を繰り返していた米朝が融和姿勢に転じ、非核化で一致したのは歴史的だった。だが、その後は具体的進展がなく、最近は北朝鮮が核開発を続けている疑いが濃厚だ。絵に描いた餅で終わらせてはいけない。
 オバマ政権時代に「核なき世界」を掲げていた米国は、2月に核戦略を大転換した。核による報復を排除せず、小型核の開発も打ち出した。
 ロシアも米国のミサイル防衛網を打破する核兵器開発を表明している。米ロの相互不信は冷戦後最悪とも言われ、軍拡の加速が懸念される。
 核禁止条約の発効に向けた動きが停滞しているのも気掛かりだ。条約は122カ国・地域が賛成したが、批准は11カ国にとどまっている。発効には50カ国・地域の批准が必要で、遅れ気味だ。
 反対する米国が途上国に水面下で圧力をかけていることも一因だ。経済支援を人質にアフリカや中南米諸国に批准しないよう求めている。
 今、世界にある核弾頭は約1万4450発。ロシア6850発、米国6450発を筆頭に、仏、中、英、パキスタン、インド、イスラエル、北朝鮮の9カ国が保有する。
 広島、長崎の2発だけで21万人超もの尊い命が奪われたのに、人類を何度も殺せる数に戦慄(せんりつ)が走る。悪魔の兵器を使う核戦争は勝者のない戦争だ。人類とは共存できない。
 核保有国と非保有国の「橋渡し役」を自任する日本は、いまだ行動を起こしていない。口先では核兵器反対を唱えながら、米国の核の傘を肯定し、安住している。自己矛盾から目を覚ました方がいい。
 冷戦時代の遺物でしかない核抑止力の思考とは決別すべきだ。いったん核が使われたら被害は計り知れない。
 共同通信の被爆者アンケートでは、回答者1450人中8割が政府に条約への参加を望んでいる。被爆者の悲願の結晶である条約を拒むのは被爆者への裏切りと言える。
 政府は被爆体験を広く国際社会に伝え、核廃絶を訴えていくべきだ。条約批准の方にこそ被爆国としてのリーダーシップを発揮してほしい。