<社説>名護流弾、捜査進まず 沖縄大使は米軍と交渉を


社会
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 米軍は自分たちに不都合な事件をうやむやにしようとしているのか。

 6月21日に名護市数久田の農作業小屋で実弾が見つかってから3カ月が過ぎた。現場は米軍キャンプ・シュワブの実弾演習場「レンジ10」に近く、米軍からの流弾である可能性は極めて高い。
 県警は発生1週間後に「重火器から発射された銃弾」と断定し、米軍に同種の実弾や資料の提供を求めた。しかし、いまだに実現していない。
 米軍は頰かむりをして責任逃れをするつもりなのか。
 重火器を使うのは米軍以外に考えにくい。数久田周辺では過去にも流弾事件が続発している。米軍自体も直後にレンジ10の一時閉鎖措置を取ったことから、疑いは濃厚だ。
 県警の捜査を阻んでいるのは日米地位協定である。公務中に発生した米軍事件の場合、米軍側に第1次裁判権があると規定されている。米軍の協力なしには、基地内立ち入りも実況見分もできない。
 海兵隊員はローテーションで駐留するため、遅くなれば容疑者が国外に出る恐れがある。証拠隠滅に手を貸していると疑われても仕方ない。
 これまでも全容解明に至らなかった流弾事件が幾つもある。2002年の名護市数久田、08年の金武町伊芸、17年の恩納村安富祖などでの流弾は、米軍が捜査に協力せず、県警は被疑者不詳のまま書類送検し、捜査を終えた。
 県民の命や生活の安全を保つためには日米地位協定の改定が最優先だ。
 だが、今回の事件では、改定に後ろ向きな政府の動きを待つわけにはいかない。政府は米軍に即座に捜査協力をするよう強く求めるべきだ。
 県内には外務省の「沖縄全権特命大使」がいる。その役割は「駐留米軍にかかわる事項などについて沖縄県民の意見、要望を聴取し、これを外務省本省に伝え、必要に応じ、米軍などとの連絡調整を行うこと」(政府答弁書)である。
 まさに今が「必要に応じ」る時だ。四軍調整官と粘り強く交渉し、県警の捜査に応じるように求めて、本来の職責を果たしてほしい。
 近年、県民からは沖縄大使の姿が見えにくい。事件・事故の抗議を受けることだけが仕事ではないはずだ。任期を大過なく過ごせばいいだけの役職になってはいないか。
 過去には県民のために汗を流した沖縄大使もいた。05年のキャンプ・ハンセン内の都市型戦闘訓練施設の建設問題で、当時の宮本雄二大使は何度も在日米軍幹部に直談判し、訓練場の移設にこぎ着けた。地元金武町の強い反発に耳を傾け、自ら動く行動派だった。
 年々落ちていく沖縄大使の存在価値を取り戻すためにも、6月に着任した川村裕大使は積極的にこの問題に関わるべきだ。加えて、日米地位協定が県民の命や人権を脅かしている実態をつぶさに見て、究極的には協定の抜本改定も本省に進言してほしい。