<社説>安田純平さん解放 取材の意義を理解したい


社会
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 内戦下のシリアで武装勢力に拘束されていたジャーナリストの安田純平さん(44)が2015年6月以来およそ3年4カ月ぶりに解放された。虐待や暴力を受け、地獄のような日々だったという。無事に帰国できたことを喜びたい。

 安田さんは内戦を取材するためトルコ南部からシリア北西部に入国した後、行方不明になった。これまでに、本人とみられる映像や画像が4回公開されている。動画サイトに投稿された今年7月の映像は「助けてください」と訴える内容だった。
 独房に監禁されている間、足を伸ばして寝ることを禁じられる状態が8カ月も続いたという。行動を厳しく制限された。よくも正常な精神状態を維持できたものだ。まずは休養に専念してほしい。
 安田さんは04年にもイラクの首都バグダッド郊外で取材中、武装集団に一時身柄を拘束されたことがある。「現場に行き、事実を伝える」という信念から、その後もイラクなどで精力的に取材を続けた。
 自らイラクで料理人として働き「ルポ 戦場出稼ぎ労働者」(集英社新書)を上梓(じょうし)した。「『取材者』としてではなく、職場の同僚としてイラク人と接することで、これまでとは違った彼らの顔を見ることができた」「再びイラクへ行ってよかった」と記している。
 拘束されたのは身代金目的だったとみられているが、日本政府は支払いを否定した。
 菅義偉官房長官は「官邸を司令塔とする『国際テロ情報収集ユニット』を中心にトルコやカタールなど関係国に働き掛けた結果だ」と説明している。政府が安田さんの解放にどう関わったかは明らかにしていない。
 ネット上では「危険な紛争現場に行って迷惑を掛けている」などとして「自己責任」を問う書き込みも見られる。
 現場の状況を直接確認し、何が起きているのか正しく伝えることは報道に携わる者の基本だ。戦地であっても例外ではない。
 世界中のジャーナリストが生命の危険を冒してまで紛争地に赴くのはそれだけの価値があるからだ。現地での取材は必要であり、意義は大きい。人道に反する残虐行為が行われていても、ジャーナリストがそこにいなければ、世界に真実が伝わっていかない。
 国家の言うがままに取材を自粛したり抑制したりすることが当たり前になれば、体制側にとって都合の悪い事柄は表に出なくなる。事実上の情報統制にもなりかねない。
 「自己責任」という批判は一面的であり、ジャーナリズムを尊重する視点が抜け落ちている。
 15年1月には安田さんとも交流のあったフリージャーナリストの後藤健二さんが「イスラム国」(IS)とみられる過激派組織に殺害された。
 今回、安田さんの身には何が起きたのか。経緯と原因を分析し、今後に生かすことも大切だ。