<社説>日ロ北方領土交渉 生活者尊重し解決目指せ


社会
この記事を書いた人 琉球新報社

 北方領土問題は解決に向かうのだろうか。安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領がシンガポールで会談し、1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速させることで合意した。

 同宣言には、平和条約締結後に北方四島のうち歯舞群島、色丹島の2島を日本に引き渡すことが明記されている。日本政府はこれまで4島返還を前提としてきた。今後、2島先行返還も選択肢として、4島全てではなく2島返還プラスアルファを目指すのなら、歴史的な譲歩をしたことになろう。
 ところが、会談翌日にプーチン大統領は記者団を前にして過去の日本の姿勢を批判し「56年宣言に島の主権はどちらになるのか書かれていない」と強調した。2島を返還しても、その主権は決まっていないという立場を示したことになる。2島プラスアルファどころではない。
 安倍首相は2年前に「新たなアプローチ」として、領土問題を棚上げして「共同経済活動」を先行させる決断をした。しかし、日本の法的立場を害しない制度の創設で合意できず、行き詰まっていた。そんな中で、9月にプーチン大統領が「前提条件を付けずに年末までに平和条約を締結しよう」と提案し、今回それに安倍首相が応えた形だ。
 首相は「私とプーチン大統領の手で必ずや終止符を打つとの強い意思を完全に共有した」と述べた。戦後70年以上にわたり膠着(こうちゃく)状態にある問題が動きだし、平和条約が結ばれることは悪いことではない。しかし、自身の政治的遺産とすることを狙って拙速に事を進めるのなら問題だ。
 北方領土問題は沖縄と無縁ではない。1950年代の日ソ交渉でも、沖縄返還問題に絡めて米国の横やりが入った。北方領土も沖縄も、辺縁にあって国家間の思惑や戦争に翻弄(ほんろう)されてきた。
 現在も日米安保条約が北方領土問題に影を落としている。ロシア側は返還後に安保条約に基づいて米軍が展開することを警戒しており、今後の交渉での難問の一つになる。沖縄の基地問題で顕著な対米追従姿勢のままでは、ロシアに足元を見られるだろう。北方領土を非武装地帯にするくらいの思い切った提案をする知恵が求められる。
 北方領土には1万数千人のロシア住民が住む。日本側には、故郷である北方領土への帰還や訪問を切望する元島民たちがいる。周辺海域で漁業を営む人々にも影響は大きい。関わりのある当事者、生活者の意向を尊重した丁寧な取り組みが必要だ。
 2015年の慰安婦問題を巡る日韓合意は、当事者への説明もないまま政府間で「最終的かつ不可逆的解決」をうたった。そのため、韓国内で厳しい批判を受けている。
 長年の懸案だからこそ、十分な説明を行い、日ロ両国民が納得する決着を目指すべきである。