<社説>係争委が請求却下 何のための第三者機関か


社会
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 総務省の第三者機関「国地方係争処理委員会」の結論はまたしても門前払いだった。米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を巡る、県の審査請求を却下することを決めたのである。

 県の埋め立て承認撤回の効力を停止させた国土交通相の決定を不服として、玉城デニー知事が昨年11月に審査を申し出ていた。
 地方自治体の行政に対する「国の関与」が違法・不当かどうかを審査するのが係争委の役割だ。違法と認めた場合は国の行政庁に勧告等を行うことになっている。
 係争委は、行政不服審査法に基づく沖縄防衛局の申し立てに対する国交相の決定について「国の関与」に当たらないと判断した。中身の議論には踏み込んでいない。審査の申し出は不適法―という見解だった。国に寄り添った結論だ。係争委の存在意義を疑わざるを得ない。
 行政不服審査法は、行政庁の違法・不当な処分などに関し国民の権利利益を救済することを目的としている。強大な権力を持つ政府機関が、私人を救済する制度を活用することは、どう考えてもおかしい。全国の行政法研究者有志110人が昨年10月「違法行為に他ならない」と声明で断じている。
 公有水面埋立法は、私人が埋め立てをする際は知事の「免許」を、国が埋め立てをする際は知事の「承認」を得なければならないと定める。国と民間事業者では取り扱いが違う。
 沖縄防衛局は「承認」を受けており、私人ではなり得ない立場にある。行政不服審査法の適用除外とされる「固有の資格」に当たり、行政不服審査制度で執行停止を申し立てることはできないと県は訴えてきた。
 これに対し係争委は「適法な埋め立てをする権限を付与する点で(承認と免許は)共通」とし、埋め立てるという効果において「私人と異なるものはない」と説明した。国の主張を丸のみした格好だ。
 国交相は、防衛相と一体となって辺野古の埋め立てを推進する内閣の一員であり、公正に審査できる立場ではない。行政不服審査法を乱用することで、結論ありきの「出来レース」が演出された。
 一連の国の対応は常軌を逸している。だが係争委は、県が主張した国交相による執行停止の違法性について適否の判断を回避した。
 2015年に翁長雄志知事(当時)による埋め立て承認取り消しの効力を国交相が停止し、県が審査を申し出た際、係争委は多数決で却下を決めた。今回は全委員が一致したという。政府の方針を後押しするための機関になりつつあるようだ。
 今後、法廷闘争が予想されるが、話し合いによって解決策を探ることが望ましい。政府は、県の要求を受け入れ、直ちに埋め立て工事を中止すべきだ。