<社説>法制局長官の暴言 国会を侮辱、すぐ更迭を


社会
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 「法の番人」もすっかり地に落ちたものだ。

 内閣法制局の横畠裕介長官が参院予算委員会で野党議員の質問姿勢を批判した。官僚が国会議員をやゆする政治的発言をするのは異例だ。立場や職責をわきまえず、国権の最高機関である国会を侮辱する暴言であり、看過できない。安倍晋三首相は横畠長官をすぐに更迭すべきだ。
 横畠長官は6日の参院予算委で、内閣に対する国会の行政監視の役割を説明する中で「(委員会で)声を荒らげて発言することまで含むとは考えていない」と答弁した。質問した議員を暗に指している。
 野党の反発を受け、横畠長官は「越権だった」として発言を撤回し謝罪した。自民党内からも非難され、予算委員長が厳重注意するに至った。
 戦前も、官僚が国会を冒瀆(ぼうとく)した「黙れ事件」があった。1938(昭和13)年3月3日、衆院委員会で、陸軍省軍務課員の佐藤賢了中佐が説明員という立場を逸脱して、国家総動員法案の必要性を長々と演説した。「やめさせろ」という議員のやじに、佐藤が「黙れ」と怒鳴り、審議が中断。陸軍大臣が陳謝した。
 その後、佐藤は栄進し、東条英機首相側近として要職を歴任した。軍部が力を強め、戦争へ突き進んでいく時代だ。
 行政府の職員が立法府をおとしめるという愚は民主主義の破壊につながる。繰り返してはなるまい。
 内閣法制局は、法制面から内閣を補佐する政府の「法律顧問」だ。憲法解釈に意見を述べ、国会に提出する法案の合憲性などを事前審査する。
 時の政権の意向に左右されず、専門的見地から法律上の見識を示すのが組織として本来の在り方だ。官僚の中でも最も中立性が求められる。
 しかし、横畠長官が就任した2014年5月以降、法制局の姿が変節している。
 14年7月の集団的自衛権行使を容認した閣議決定では、憲法解釈変更を手助けした。歴代の法制局長官が「行使はできない」としてきた見解を横畠長官は大転換し、「必要最小限度の行使は憲法9条の下でも許される」とした。
 15年の安全保障関連法の審議では、多くの憲法学者が違憲と主張する中、合憲論を繰り返した。16年には「憲法上あらゆる核兵器の使用が禁止されているとは考えていない」との見解を表明した。
 まさに「法の番人が安倍政権の門番に成り下がった」という野党の批判通りだ。法制局は法治主義を忘れて、政権の顔色うかがいに奔走しているのではないか。今回の発言もその延長だ。
 背景には恣意(しい)的な人事がある。集団的自衛権の行使を容認する際、政権は法制局未経験者であっても、意に沿う人物を長官に起用した。横畠氏の前任者である。
 一強政権の下なら何でもできると、官僚が虎の威を借る狐と化している。安倍首相の任命責任が厳しく問われる。