<社説>新たに土砂投入 民意尊重し工事中止せよ


社会
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 沖縄の民意を踏みにじる政府が、その強権姿勢を一段とエスカレートさせてきた。

 米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設で、政府が新たな区域への土砂投入を始めたのである。
 2月24日に行われた県民投票では、埋め立て反対が有効投票数の72・15%に当たる43万4273票に達した。この結果を踏まえ、玉城デニー知事が工事をやめるよう安倍晋三首相に求めたが、政府は聞く耳を持たない。
 言うまでもなく、民主主義は、人を人として尊重することが土台だ。民意に背を向ける政府の姿勢は「人間尊重」の対極にある。これでは民主国家の名に値しない。
 防衛省は全体で約160ヘクタールを埋め立てる計画で、昨年12月から約6・3ヘクタールの区域で土砂投入を続けている。新たに土砂を入れ始めたのは西側に隣接する約33ヘクタールの区域だ。
 ただ、東側の埋め立て予定海域には軟弱地盤が広がっており、政府は工期や事業費さえきちんと説明できていない。いつまでに終わるという確たる見通しもなく、費用がいくらかかるかも分からない中で、見切り発車的に埋め立てが始まった。このようなずさんな国費の投入が許されていいはずがない。
 新基地建設を強行する政府が錦の御旗にしているのは、「県外移設を求める」と公約していた仲井真弘多知事(当時)が2013年に一転して埋め立てを承認したことだ。
 仲井真氏は翌14年の知事選で、辺野古移設反対の公約を掲げた翁長雄志氏に10万票近い大差をつけられて落選した。仲井真氏の決定が、大多数の民意に反していたことは選挙結果から明らかだ。
 本来であれば、この時点で現行の移設計画は見直されるべきだった。県外移設が困難を伴うとみて、政府が引き続き辺野古移設を推進したのは、職責放棄、職務怠慢としか言いようがない。
 その後、翁長氏の死去に伴う昨年の知事選で新基地建設反対を掲げた玉城知事が誕生する。辺野古移設反対の揺るぎない民意が重ねて明確になった。さらに県民投票によって駄目押しをした形だ。
 だが政府は方針を変えるどころか、既成事実を積み重ねる。県民を打ちのめし、無力感を味わわせ、諦めさせようともくろんでいるのだろう。
 岩屋毅防衛相は「抑止力維持と基地負担軽減の両方を満たす唯一の選択肢だ」と強調した。辺野古移設ありきで完全に思考停止に陥っている。
 「抑止力」は政府の常套(じょうとう)句だが、県内移設を正当化するための理屈にすぎない。軍事面から見れば、沖縄に海兵隊を展開する理由は乏しいと多くの専門家が指摘している。
 政府は埋め立てを直ちに中止し、移設計画を根本から見直すべきだ。できない理由をあげつらうのではなく、どうすれば県内移設なしに全面返還を実現できるのか、知恵を絞ることが大切だ。