<社説>普天間爆音訴訟判決 被害の矮小化許されない


社会
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 米軍基地がもたらす被害を矮小(わいしょう)化する判決と言わざるを得ない。

 米軍普天間飛行場の周辺住民3415人が米軍機の飛行差し止めと騒音被害の賠償などを国に求めた第2次普天間爆音訴訟の控訴審判決で、福岡高裁那覇支部が賠償基準額を一審判決よりも30%以上減額した。
 「被害は受忍限度を超える違法な権利侵害」として約21億2千万円の支払いを国に命じる一方、飛行の差し止め請求は棄却した。これまでの基地騒音訴訟と同様、「国は米軍航空機の運航を規制し、制限する立場にない」とする「第三者行為論」を採用している。
 米軍機の傍若無人な運用をいつまで放置するのか。騒音被害に真正面から向き合うどころか、目をそむけようとする判決にも映る。受け入れられるものではない。
 判決は騒音被害について「会話やテレビ視聴、勉強など日常生活のさまざまな面で妨害され、精神的苦痛や睡眠妨害、高血圧の症状も生じている」と認定した。だが、内容は一審や第1次訴訟よりも後退している。高血圧発症のリスクを増大させる健康被害については「騒音のみが原因となっているとは認めがたい」と指摘した。
 賠償基準額は、うるささ指数(W値)75以上の原告で月額4500円、W値80以上で9千円とし、それぞれ7千円、1万3千円とした一審判決から大幅に引き下げた。
 普天間飛行場の騒音被害は緩和されるどころか激化する一方だ。明確に理由も示さないままの減額は理解し難い。
 垂直離着陸輸送機オスプレイが昼夜の別なく発着し、最新鋭ステルス戦闘機F35Bなどの外来機の飛来も増えている。2018年度に宜野湾市に寄せられた騒音の苦情は684件で過去最多を記録した。松川正則宜野湾市長が指摘するように、もはや市民の我慢は限界を超えている。
 オスプレイがまき散らす独特の騒音は、飛行経路下の那覇市内にあってもテレビの音声を聞き取れなくし会話を中断させる。普天間飛行場周辺の住民に耐え難い苦痛を与えていることは周知の事実だ。
 にもかかわらず「オスプレイ配備によって被害が増大したと認めるに足りる証拠はない」と退けた。到底、納得がいかない。
 飛行場周辺の騒音コンター(分布図)区域外の住民の被害については「W値75以上の騒音と比べて小さいと言わざるを得ない」とし、賠償を認めなかった。
 概して、国を相手にした訴訟では、政府側に有利な判決が目立つ。裁判官が良心に従い公正無私の立場で職権を行使した結果なのであろうか。
 裁判官は独立しており、いかなる国家機関からも指揮命令を受けることがない。時の政権などの意向を忖度(そんたく)し迎合するような傾向が万が一にもあるならば、司法の自殺行為に等しい。