<社説>係争委が県申請却下 国追認機関と化している


社会
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 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を巡り、総務省の第三者機関「国地方係争処理委員会」(係争委)は県の審査申し出を再び却下した。埋め立て承認撤回を取り消した国土交通相の裁決を不服とする県の申請に対してだ。2月には、埋め立て承認撤回の効力停止を不服とした県の主張を退けたが、それと同じ結論だ。

 係争委は県の審査請求の主張が前回と同趣旨だったため「判断も同旨となった」と説明した。「国が主張する内容の適法性を判断するものではない」とも述べた。
 国交相の判断が違法かどうかなど実質的な審議はせず形式論に終始し、またもや門前払いにした。
 係争委の判断を受けて県は国交相の裁決の取り消しを求めて福岡高裁に提訴する見通しだ。辺野古問題を巡る国と県の対立は再び法廷の場に移ることになる。
 行政不服審査制度を用いて撤回の審査を申し出た沖縄防衛局は一般私人と同様の立場にないため審査請求できないと県は主張する。内閣の一員である国交相は、防衛局の申し立てを判断できる立場にないとも指摘している。これに対し国は「防衛局は私人と同様の立場だ」と反論する。このため国の機関が審査庁になり得るとも主張している。
 これらの議論を巡る係争委の判断は前回同様、国の主張をうのみにした内容だ。国の主張に対しては、多くの行政法研究者が批判してきたが、それを無視した形だ。批判を真摯(しんし)に受け止めているとは思えない。
 そもそも国が進める埋め立てには疑問が尽きない。大浦湾の軟弱地盤の改良は工期や工費を示せていない。県は、埋め立て工程の変更に関して環境保全を理由に国へ行政指導を再三実施している。環境面にも疑念が残る。
 こうした問題含みの工事について中身に踏み込まず形式論で門前払いしたことは、係争委が第三者機関として機能していないことを意味する。
 係争委は、国と自治体の関係を「上下・主従」から「対等・協力」に転換した1999年の地方自治法改正に伴い設置された。自治体の行政運営に対する国の介入が違法・不当だと判断すれば、是正を求める役割がある。
 ところが係争委は2月に続いて今回も国の主張に寄り添った。これではあるべき姿から程遠い。本来の役割を放棄し、国の追認機関と化しているように映る。
 県が係争委に申し出たのは、いくら対話による解決を求めても政府が聞く耳を持たないからだ。投票者の約7割が反対した県民投票後も政府が姿勢を変えない中、第三者機関が機能しないのでは、自治にとどまらず、日本の民主主義制度全体が機能不全に陥っているとしか思えない。
 沖縄以外の人々にとっても人ごとではないはずだ。このあからさまな実態に目を向けてほしい。