<社説>米朝首脳会談 不可逆的な対話の機会に


社会
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 再び歴史的な歩みを始めたことを評価したい。

 トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長による3度目の会談が電撃的に実現した。それが南北軍事境界線のある板門店で実現した意義は大きい。トランプ氏は現職の米大統領として初めて境界線を越えて北朝鮮側に足を踏み入れた。
 トランプ氏は金氏を米ホワイトハウスに、金氏はトランプ氏を平壌に招待した。金氏は「過去を清算し未来へ向かわねばならない」と述べた。一方のトランプ氏は包括的な合意を目指して米朝実務協議を再開すると明らかにした。
 大きな焦点になっている朝鮮半島の完全非核化について具体的な進展はなかったが、米朝の協議再開を内外に示した格好だ。これまで2度の会談で双方の主張の隔たりの大きさが際立っていただけに、協議の進展に期待したい。
 米朝首脳会談を巡っては、昨年6月に初めて会談し、金委員長が完全非核化を約束、トランプ氏は米韓軍事演習の中止を表明した。米側が求める完全で検証可能、不可逆的な非核化を北朝鮮に認めさせることが最大の焦点だったが、実現しなかった。北朝鮮側は段階的なアプローチを望んだ。トランプ氏は「完全な非核化には時間がかかる」との見方を示した。
 2回目の会談では双方の溝が深いことが一層浮き彫りになった。米側は、核兵器の原料製造に使われてきた寧辺の核施設の査察や廃棄を完全非核化への第一歩と位置付けていたが、北朝鮮は経済制裁の解除を求め、物別れに終わった。その後、米朝間の交渉は停滞し、非核化実現の展望が見えない状況に陥った。
 今回の会談は、一度切れかけた関係を修復する意味でも一歩前進だ。
 トランプ氏は数週間内に交渉チームをつくり、包括的合意を目指して課題を整理する考えを示した。米朝はこうした対話路線を不可逆的に進めてほしい。今回の電撃会談はそのきっかけとして位置付けるべきだ。
 とはいえ、非核化を巡る今後の米朝間の交渉は不透明な要素も大きい。非核化を実現させるためには、北朝鮮を敵視して孤立させるのではなく、米国や韓国に中国、ロシア、日本などを加えた国際的協議の枠組みをつくるなど関係国の後押しも大切だ。
 朝鮮半島の非核化に加え、平和条約の締結など、南北問題の解決に向けた歩みを止めてはいけない。
 政府はこの間、沖縄に米軍が駐留する理由として、北朝鮮などの脅威を挙げてきた。朝鮮半島の緊張が緩和すればするほど、在沖米軍基地の存在理由は乏しくなる。
 沖縄の過重な基地負担を軽減するためにも、対話をさらに前に進めてほしい。朝鮮半島の情勢は、名護市辺野古の新基地建設の必要性にも関わる問題だ。協議の行方を沖縄からも注目したい。