防衛白書 緊張緩和置き去りにするな

 中国や北朝鮮の脅威をあおるだけでは、いたずらに軍事的緊張を高めかねない。日本を取り巻く安全保障環境の安定に向けた外交努力と、変化に機敏に反応する柔軟性が一向に見えてこない。

 政府が閣議決定した2011年版防衛白書の印象である。米軍普天間飛行場を名護市辺野古に移設する理由について、政府は、不安定な東アジアの安全保障環境を挙げた。
 その上で「国外・県外に移設すれば、海兵隊の機能を損なう」とし、昨年の記述を踏襲した。
 周辺諸国と一定の距離を置く地理的な特徴を持つ沖縄に、機動力がある海兵隊が駐留する意義を強調している。
 鳩山由紀夫前首相が、沖縄に基地を押し付けるための「方便」だったと告白した「抑止力論」と「地政学的優位性」にとらわれた、防衛官僚主導の結論ありきの主張だ。
 白書は「沖縄県民の負担軽減と普天間の危険性除去のため、全力を尽くす」としている。美辞麗句を並べても、普天間飛行場の県外移設を求める沖縄の民意を反映し、毅然(きぜん)と対米折衝に臨む決意が伴わない限り、抜本的な負担軽減の成果は上がらないだろう。
 防衛白書が、沖縄の地理的優位性を強調するようになったのは、1995年の少女乱暴事件の後だ。反基地感情の高まりに焦り、沖縄に基地を置く理由を後付けで定めたにすぎない。
 巨額の財政赤字を抱える米国の議会有力者が、普天間飛行場の名護市辺野古移設を不可能とみなす地殻変動があり、グアムへの在沖海兵隊の移転費が全額削除された。
 県民が警戒感を高めている最新鋭の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが普天間に配備される計画があるが、白書は不都合な事実はいずれも無視を決め込んでいる。
 白書は尖閣諸島をめぐる中国の行動や南沙諸島での権益確保の動きなどを挙げ、「高圧的」という刺激的な言葉で警戒感をあらわにし、先島諸島への自衛隊増強を正当化した。早速中国が反発している。
 国際情勢の変化や不安定要因への対処策が軍事に偏っては新たな脅威と緊張を招きかねない。
 外交と結び付きを強める経済、文化など、裾野の広い対話による緊張緩和を置き去りにしてはならない。日米中の3カ国による安全保障対話など、新たな道筋を示すことこそ、白書の役割だろう。