32軍壕説明板設置 戦争犠牲者を冒涜するな

 癒やされぬ心の傷を抱えながら、「子々孫々へ真実を引き継がねば」との使命感で証言してきた戦争体験者への背信行為ではないか。
 「住民虐殺」「慰安婦」など沖縄戦の本質を伝える記述を削除したまま、県が旧日本軍第32軍司令部壕の説明板を設置したことだ。

 32軍壕は、米軍の本土攻略を遅らせるため戦争を引き延ばす「捨て石作戦」を練った場所だ。捨て石にされたことで、おびただしい数の一般住民が犠牲となった。その意味で32軍壕は、沖縄戦の本質を考える極めて重要な場所だ。
 そこに建つ説明板は単なる観光説明板ではない。史実と真摯(しんし)に向き合う歴史教育の場でもある。
 何を意図して本質を覆い隠すのか。県は自らが委嘱した説明板設置検討委員会の有識者と史実を再検証した上で、その意見を尊重し説明板を是正するのが筋だ。
 1999年の県平和祈念資料館の展示内容の大幅変更問題、2007年の高校歴史教科書検定で「集団自決」(強制集団死)の日本軍強制の記述が削除された問題でも分かるように、沖縄戦の史実継承は県民の琴線に触れる問題だ。
 それを十分理解し、慎重に言葉を選んだはずの説明板検討委の答申を無断で変更するのは乱暴だ。委員の削除撤回要求を事実上無視して、一方的に設置するに至ってはもはや暴挙というほかない。
 「住民虐殺」は複数の証言もあり、目撃者も健在だ。「慰安婦」について、県は「明確にそこにいたという事実を証明する文献、書類がない」と削除の理由を説明するが、これも複数の証言がある。
 大江・岩波訴訟の最高裁判決でも示された通り、オーラル・ヒストリー(口述証言)による証言の重要性は法廷で認められた。連綿と紡いできた沖縄戦の証言の価値がきちんと評価されたのだ。
 敗戦に伴い、政府や日本軍が重要書類の焼却を命じていたことは当時の関係者の回想に残っている。文書資料に乏しい沖縄戦の実相を知る上で体験者の証言は重要だ。
 戦争体験者の証言を丁寧に掘り起こすことは、研究者はもちろん、県や県内市町村の歴史的使命だ。
 繰り返すが、沖縄戦の本質を覆い隠すことは、沖縄戦研究の蓄積を否定し、戦争犠牲者や体験者を冒涜(ぼうとく)する行為にほかならない。県の最高責任者である仲井真弘多知事に県対応の再考を求めたい。