首相所信表明 「明日の安心」沖縄にも 喫緊の課題 優先処理を

 衆院解散時期をめぐり、与野党の対立が激化する中、臨時国会が召集された。
 野党側は参議院で問責決議案が可決されている野田佳彦首相の所信表明演説を拒み、首相は衆議院だけで演説した。現行憲法下では初の異常な事態となった。

 2012年度の予算執行に欠かせない公債発行特例法案や衆院選挙制度の「1票の格差」是正など、喫緊の懸案を最優先で処理すべきだ。
 与野党の党利党略を帯びた不毛な対立は国民生活への悪影響を広げ、政党政治への不信をさらに強めることにしかならない。

露骨な二面性
 今回の臨時国会は、米海兵隊のMV22オスプレイの普天間飛行場への配備強行に加え、海軍兵による集団女性暴行致傷事件が発生し、県民の憤りが増幅する中で迎えた。
 野田首相は集団暴行致傷事件について「許し難い事件」と述べた。だが、「日米同盟の基盤をより強固なものにしなければならない。そうであればこそ、沖縄で発生した許し難い事件は―」と前置きしている。
 文脈をたどれば、「日米同盟」を揺るがしかねないから「許し難い」と読める。これでは本末転倒だ。
 県民の尊厳を踏みにじる凶悪犯罪を引き起こし、国民、県民を守らない「安保」の姿を照らし出した事件に対する怒りはうかがえない。日米安保が揺らぐことへの危機感を優先する野田首相の姿勢に対し、早速県内から反発が起きている。
 さらに、首相は、オスプレイの沖縄配備や日米地位協定の見直しにも一切言及しなかった。低空飛行ルートになっている本土の自治体からも反発がある中、オスプレイ問題を「沖縄」限定に矮小化する腹づもりなのだろう。
 首相が、沖縄の基地負担軽減の手法として掲げたのは事件・事故の再発防止と、普天間飛行場の移設にとどまる。県民の声を聞く姿勢を取り繕いながら、実際は日米合意の見直しを頑なに拒む二面性をさらけ出している。
 1972年の本土復帰後、県内で米兵・軍属による女性暴行は124件も発生し、被害者は今なお苦痛を抱えて生きている。
 野田首相は所信表明の中で、「明日への責任」に20回も言及し、「明日の安心」のフレーズも用いた。沖縄社会は「明日の安心」の蚊帳の外なのか。
 首相はまず、沖縄の痛みに真摯に向き合い、基地押し付けから脱する「明日への責任」を果たす気概を示すべきだ。

対立軸示し、総選挙を
 野田首相の所信表明は、苦しい政権運営を何とか脱したいという“内向き思考”が色濃い。政策課題への処方箋というよりも、課題の列挙と抽象論が目立つ。
 「明日への責任」を繰り返したが、経済再生や脱原発を図るエネルギー政策は具体性が乏しい。
 消費増税によって生活を直撃される低所得者への対応や、あるべき社会保障像を探る「国民会議」の設置は、協議を呼び掛けただけの構図になっている。
 領土問題でも、竹島や尖閣諸島に触れず、「領土・領海を守る責務を国際法に従って不退転の決意で示す」と語るにとどめた。
 中韓両国との深刻な対立をどう打開し、中長期的な国益確保、ひいては東アジアの平和と安定を展望するのかが見えない。
 首相は、自民、公明両党が迫る衆院解散時期には触れず、「やみくもに政治空白をつくって、政策に停滞をもたらすようなことがあってはならない」と解散先送りを示唆した。国会の混乱の責任を野党側に押し付ける姿勢にも映る。
 解散先送り論が強まっているが、野党側も「早期解散」を求め続けるだけでは、国民の理解は得られまい。まずは、国民生活に直結する重要案件をしっかり処理し、その上で各党が対立軸を鮮明にして、総選挙に臨むべきだ。