機関紙配布事件 言論封殺への厳しい戒めだ


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 国家公務員が休日に共産党機関紙「赤旗」を配布したことが罪に問えるかが争われた事件の上告審判決で、最高裁は公務員であっても一切の政治活動が許されないことはおかしいとの判断を示した。

 国家公務員法が禁じる「政治活動」の範囲について、「政治的中立性を損なう恐れが実質的に認められるものに限る」との新たな枠をはめた。憲法が保障する「表現の自由」を従来よりも幅広く解釈し、公務員の政治活動の範囲を広げた。
 この枠組みに基づき、旧社会保険庁職員は控訴審での無罪、多くの職員に影響を与える地位にあったとみなされた厚生労働省の元課長補佐は有罪が確定する。
 欧米主要国では、勤務時間外や勤務先以外の政治活動は原則自由だ。公私を問わず、国家公務員の政治活動を広く規制し、刑事罰まで科す国は日本だけとされる。
 過剰な規制を見直し、思想信条や表現の自由に配慮することに踏み込んだ判決をまず評価したい。
 判決は、間接的に言論封殺の危険性を帯びた、異常な捜査を厳しく戒めている。
 2004年の社保庁職員の逮捕時、警視庁は29日間も最大11人の捜査員に尾行させ、6台のビデオカメラを回した。こうした捜査は「狙い撃ち」にほかならない。
 当時は、自衛隊のイラク派遣「反対」のビラを配った市民団体のメンバーらが相次いで逮捕されていた。国連の自由権規約委員会が08年に「懸念」を表明し、日本政府に対して表現の自由への不合理な制限撤廃を求めていた。
 判決は、特定の政党などを支持する公務員を問答無用に摘発する警察の捜査に警鐘を鳴らしている。
 日本維新の会の橋下徹代表が市長を務める大阪市が7月、市職員の政治活動を一律規制する条例を成立させ、自民や維新を軸に衆院選でも公務員の政治活動に厳しくたがをはめる動きが顕在化している。判決はやみくもな規制強化にくぎを刺した。
 政治的行為の基準にあいまいさが残り、同じ行為で無罪と有罪に分かれたことに疑問は尽きない。
 反対意見を記した判事は「一市民としての行動」として二人とも「無罪」を主張した。欧米諸国に比べ、突出して厳しい規定を判決は合憲とした。本来なら小法廷ではなく、15人の裁判官が大法廷で合議し、合憲か違憲かを徹底的に論じ、結論を出すべきだった。