高額療養費 不安取り除く抜本改革を


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 生きていくことに不安を覚える社会は良い社会とは言えない。高額の医療費を要する病人にとってはなおさらそうだ。病以外の不安を取り除く制度を構築する義務が社会にはある。

 その意味でこれは歓迎すべき施策だ。厚生労働省が、高額の医療費がかかった時の患者の自己負担額を一定額に抑える高額療養費制度を大幅拡充する方針を固めた。制度を持続可能にするためにも、抜本的な改革で社会の不安を取り除きたい。
 高額療養費は、健康な時には気付かないが、身近な制度だ。社会に欠かせないセーフティーネットとして機能している。
 例えばがん治療の場合、抗がん剤の中には1本10万円程度かかるものもある。月に5本打つのなら50万円。支払える家庭はごく限られているはずだ。月間の支払いに上限があるからこそ、家庭も社会も成り立つ。
 だが、現行制度では不安も残る。年収約200万~約800万円の人なら月額8万円が上限だ。年金受給者の大半はここにあてはまる。年間200万円余りの年金だけで生活している人が、月8万円、年間なら100万円近くも医療費に充てて生活できるだろうか。
 そのため負担軽減を求める声が高まり、厚労省の社会保障審議会医療保険部会は2011年、自己負担限度額の引き下げを柱とする制度拡充を検討し始めた。年収の幅が広すぎるとして区分を細分化し、年収300万円以下の人の自己負担額の上限を月4万円にする案が有力となった。
 だが数千億円の財源が必要だ。このため外来患者の窓口支払いに100円程度を上乗せする案が浮上したが、高齢者など外来患者に負担を回すことへの反発が強く、結局、厚労省が昨年提出した案は、必要な公費が約20億円と、ごく小幅な見直しにとどまった。
 これを大幅拡充し、「低所得者の負担半減」に戻すのが今後の方向性だ。財源は今後、社会保障改革を議論する国民会議が検討する。それが最大の難題だが、高額所得者に負担増を求めるのも選択肢となろう。
 セーフティーネットの充実は、老後の不安を取り除き、死蔵された貯蓄を消費に回す効果もあろう。それは一過性でない持続的な景気浮揚策にもなる。景気を重視する安倍政権ならなおさら、その効果も勘案すべきだ。