<金口木舌>言論弾圧が教えるもの


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 戦時中の花柳界を舞台にした有吉佐和子さんの小説「芝桜」で、読み書きのできない蔦代が、満州事変を報じる新聞を読む親友を皮肉る場面がある。「正ちゃんは字が読めるから気の毒ね。読んだものは間違いないって思うから」

▼軍部の意向に沿った戦意高揚報道を庶民はお見通しだった。次元は異なるが、今、中国市民も皮肉の一つも言いたいのではないか。広東省で当局による地元紙「南方週末」の記事改ざんが問題化している
▼当局は、民主政治の実現を訴える同紙の記事を書き換えた。中国共産党はメディアに「党と人民の耳、目、舌になること」を要求し、内容を検閲する。党の批判は載せないのが基本原則だ
▼2011年の中国高速鉄道事故でも当局は生存者がいたにもかかわらず、発生翌日に車両を切断し、残骸を現場に埋めた。報道が政府を批判すると規制に走り、6日後に事故報道は姿を消した
▼今回の改ざん問題はしばらく、くすぶりそうだ。報道関係者や市民の反発が強い。民主化要求の表れだろう。習近平体制への改革の期待の裏返しとも言えようか
▼同紙はオバマ米大統領から「教養のある市民は健全な政府にとって不可欠だ。そして報道の自由が見識の高い市民を育てる」とのメッセージを託されたが、掲載できなかった。言論弾圧の歴史は教える。表現の自由のない社会に健全な政府は持てない。