「尖閣」識者提言 草の根交流重ね信頼回復を


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 尖閣問題で緊張する日中関係に関し、県内の識者らが尖閣諸島を日本・中国・台湾の共存・共生の場にするよう求める緊急アピールを発表、政策提言する会を発足させる方針も表明した。

 問題の平和的解決に向けた提言に賛同するとともに、幅広い支持が集まることを期待したい。
 領土問題はナショナリズムを刺激し、ややもすると理性的判断を失わせる。いま尖閣問題で必要なのはまさに理性的判断に基づき、軍事衝突を回避する冷静な対応だ。
 尖閣の国有化以来、中国は再三にわたり領海、領空侵犯など挑発的行為を繰り返す。これに対し日本は空自部隊展開など自衛隊強化を検討している。しかし、軍事的対応を強化すればかえって安全を損なう「安全保障のジレンマ」に陥り、悪循環となることは軍事専門家が一番よく知っているはずだ。外交的解決にこそ注力すべきだ。
 戦争の教訓からも分かる通り、国家が常に理性的判断をするとは限らない。こと領土問題に関しては、その傾向が強い。その意味でも信頼回復に向けた市民レベルの行動の意義は大きい。
 軍事衝突が起これば、戦火にさらされるのは沖縄、先島の人たちであり、漁民たちだ。日中両国で尖閣問題を政治的に利用する動きが強まるが、偏狭なナショナリズムに踊らされてはならない。
 アピールでは(1)尖閣を非武装化し、共存・共生のシンボルとする(2)「歴史認識」問題をめぐる日本、中国、台湾の3者間の学術的討議(3)突発的事件を防ぐための3者間の協議機関設置-などを挙げる。
 反日デモが激しさを増した昨年10月、ノーベル賞作家の大江健三郎さんらが出した市民アピールに応じ、中国でもネット上で同様の呼び掛けに大勢が署名した。問題の“当事者”である沖縄からの提言は訴える力を持つと期待したい。
 昨年のノーベル平和賞を受賞した欧州連合(EU)の統合への道のりは、独仏が戦争で争奪を繰り返したアルザス・ロレーヌ地方の資源を共同管理したことが原点だった。識者らが提言する「尖閣を共存・共生のシンボルにする」という発想も決して夢物語ではない。
 日中国交回復から40年。経済、移住、学術や文化交流など人のつながりは密接になった。それを断ち切らないよう“草の根”からも緊張緩和を力強く推し進めたい。