検定基準見直し 共同歴史研究で溝埋めよ


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 中国・韓国の両国が日本との関係修復を模索している中、その機運に水を差し、新たなあつれきを招かないか危惧する。

 文部科学省が、中国や韓国などアジア諸国との歴史的関係に配慮するよう求めた教科書検定基準の見直しに向け具体的な検討を進める方針を決めた。自民党内に「歴史教科書の自虐史観につながる」との声が強く、政権公約でも「検定基準の改善」を明記しているのが理由だ。
 教科書は調査研究を尽くした事実に基づいて編集されるべきであり、政治的な特定の歴史観に左右されてはならないはずだ。見直しを強行するのは、極めて危険だ。
 強行すれば、必ずや中国・韓国の強い反発を招くだろう。日本の右傾化には、アジア諸国も神経をとがらせている。「無用の混乱」を引き起こすような検定基準の見直しは行うべきではない。
 1981年度の高校歴史教科書の検定で、第2次世界大戦時に日本軍がアジアへ「侵略」したとする教科書の記述が「進出」に修正された。これに中国・韓国が反発したことを受け、近現代史を扱う社会科教科書の検定基準は、アジア諸国への配慮を求める「近隣諸国条項」を設けている。
 それを見直すとなれば、「近隣諸国条項」の基になった当時の宮沢喜一官房長官談話との整合性を問われるのは間違いない。文部科学省内の手続きだけでなく、新たな政府見解を示す必要も生じるだろう。現状で検定基準を見直す必要性は見当たらない。
 中国は共産党の習近平総書記が公明党の山口那津男代表と会談、日本との関係改善にかじを切り始めた。韓国も来月就任する朴槿恵次期大統領が関係改善を探っている。この好機を生かすためにも、まずは安倍首相が先頭に立って平和的な改善策から模索すべきだ。
 2010年3月、日韓両国の有識者でつくる第2期日韓歴史共同研究委員会が報告書を発表した。双方の隔たりは大きかったが歴史認識を近づける意義深い取り組みだった。こうした努力こそ積み重ねるべきだ。
 安倍首相は「日本の伝統文化に誇りを持てる教科書」にこだわりを見せているが、歴史的事実をねじ曲げることがあってはならない。追求すべきは、日本国民とアジア諸国が共通認識を持てる教科書だ。相互不信と対立を子どもたちに引き継いではならない。