柔道監督辞任 人間教育の原点に返れ


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 柔道女子日本代表の園田隆二監督が辞任した。ロンドン五輪代表を含む柔道トップ選手15人から暴力行為とパワーハラスメントを告発されていた。昨年9月下旬の問題把握から約4カ月も経過しての監督辞任は、遅きに失している。今回の問題では、全日本柔道連盟の対応に多くの疑問が残る。

 昨年のロンドン五輪終了後まもなく、全柔連は監督の選手に対する暴力を把握した。しかし選手1人に聞き取り調査をしただけで、実態の全容解明をしなかった。
 11月には監督の留任を決め、始末書の提出と厳重注意処分で済ませた。危機意識、問題解決の姿勢が乏しく、これでは「隠蔽(いんぺい)した」と言われても仕方がない。
 それなのに専務理事は強化合宿で選手を前にして「安心して世界を目指してほしい」と話したという。選手の不安や不信感に思いを致さない激励が、選手の心に響くはずがない。園田氏だけでなく、全柔連上層部の責任も重大だ。
 選手たちは柔道界の外に救いを求める以外に方法がなかったのだろう。昨年12月4日に選手15人が日本オリンピック委員会(JOC)に告発文書を提出し、25日には強化体制見直しを求める嘆願書を出したのは、その証左だ。
 JOCが動き出したため、全柔連は監督らに新たに戒告処分を出した。問題を放置しながら外部の指摘で対応に乗り出した姿勢はいかにもずさんで、自浄作用のなさを自らさらけだす行為と言える。
 監督は辞任した。しかし全柔連の上村春樹会長や代表チームを統括する強化担当の吉村和郎理事はその座にとどまったままだ。
 上層部には自身の責任を問う様子はなく、トカゲのしっぽ切りで問題を収束させる腹づもりとしか映らない。これで果たして再発防止策を講じ、再出発できるのか。
 オリンピック憲章には肉体と意志と知性の資質の高揚と調和という人生哲学が理念に掲げられている。暴力など入り込む余地はなく、五輪を目指す場が暴力で汚されていたことは残念の極みだ。
 日本の国技であり、世界的に普及した柔道は、嘉納治五郎氏が日本伝講道館柔道として創始した。競技としての勝利至上主義ではなく、身体、精神の鍛錬と教育が目的だった。全柔連はいま一度、人間教育という嘉納氏の精神を取り戻し、原点に立ち返るべきだ。