原発震災2年 教訓を風化させるな 原点直視し脱原発図れ


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 震災と放射能災害が複合する2年前の「原発震災」で、原子力安全神話は幻想にすぎないとわれわれは学んだはずだった。

 経済性を優先し安全性をないがしろにしてはならない-。活断層が縦横に走る地震列島の日本で、安全を完全に保証する原発は存在し得るのか-。過酷事故から得た教訓や原発への疑念は尽きない。
 東京電力福島第1原発は依然として廃炉に向けた道筋は見えず、避難者は今なお約31万5千人に上り、多くの人を苦しめている。
 だが安倍政権の原発政策をめぐる対応は、「フクシマ」の教訓を忘れさろうとしているではないかと強い懸念を抱かざるを得ない。

危うい先祖返り

 安倍晋三首相は施政方針演説で、安全確認を前提に原発を再稼働する方針を明言した。長年、原子力政策を推進してきた自民党は、昨年12月に政権を奪還後、民主党政権が掲げた「2030年代の原発稼働ゼロ」方針の見直しを早々と表明していた。
 原発の安全神話を振りまき、大惨事を引き起こした反省が感じられず無責任に映る。ましてや安倍政権のエネルギー政策はあいまいなままにもかかわらず、原発維持ありきの姿勢が露骨すぎる。
 経済産業相の諮問機関である総合資源エネルギー調査会は、エネルギー基本計画の策定に向けた議論を15日から始めるが、民主党政権が起用した脱原発派が委員から外れた。この点を見ても、安倍政権が原発推進色を強めているのは明らかだろう。
 原発事故を契機とした「電力システム改革」の行方も不透明だ。電力会社による地域独占の弊害をなくすことが狙いで、電力会社の発電部門と送電部門を分離する「発送電分離」や、一般家庭対象の「小売りの全面自由化」などが柱だ。ただ、電力各社の抵抗は根強く改革が骨抜きとなる懸念は消えていない。改革に向け電力業界と蜜月関係にあった自民党の姿勢も厳しく問われる。
 一方、日本原子力発電敦賀原発の断層調査をめぐっては、原子力規制庁審議官が、公表前の報告書原案を日本原電側に漏えいしていたことが発覚。相も変わらぬ官業の癒着体質を露呈した。
 原発事故前に時計の針を巻き戻すかのような不祥事は、原発神話を信奉していた古い政治への先祖返りの兆候と決して無縁ではあるまい。「原子力ムラ」「電力ムラ」の解体はやはり掛け声倒れだったのかと国民を落胆させてはならない。安倍首相はしっかりと肝に銘じる必要がある。

収束に程遠い現実

 福島第1原発に目を向ければ、事故の収束とは程遠い厳しい現実が横たわる。廃炉費用は「青天井」で作業は30~40年、それ以上かかるとされるから言葉を失う。
 今秋にも4号機の使用済み燃料プールから燃料取り出しが始まるが、敷地内で増え続ける汚染水が作業を阻む。毎日大量の地下水が流入し汚染水となって仮設の貯水タンクが積み上がっているからだ。東電は約60種類の放射性物質を除去できる最新設備で処理する考えだが、長期的な廃炉計画を見通す上でも作業を急いでほしい。
 一方、日本の農水産物の放射性物質による汚染を懸念し、中国や韓国など44カ国・地域が輸入停止などの輸入規制を続けている。科学的根拠に基づくとは言い難いが、日本の事故対応に国際社会が納得していない表れだ。裏返せば原発事故の教訓や経験が世界に発信できていない証左でもあろう。
 安倍首相は原点である「フクシマ」を今こそ直視すべきだ。十分な議論もなく、なし崩し的に原発維持に回帰すべきではない。事故後、多くの自治体や企業、市民らが再生可能エネルギーの普及・拡大や一層の省エネに取り組むようになったが、そうした脱原発を後押しする施策にこそ総力を挙げるべきだ。事故の教訓を風化させることなく、原子力に依存しない社会を真剣に追求してもらいたい。