エジプト政変 民主主義が試されている


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 エジプトの民主化は後退を余儀なくされた。初の民主的な選挙で選ばれたモルシ大統領が、軍によって実力で排除されたからだ。

 民主主義制度の下で、紛争の解決手段として軍が介入することは、民主主義を否定する行為だ。
 軍は反政府デモによる混乱を収拾するために憲法を停止し、大統領の権限を剥奪したと発表したが、正当性に疑問がある。言論への介入など強権体制への逆戻りを憂慮する。 
 中東の民主化運動「アラブの春」によって、軍の利益を代弁するエジプトのムバラク政権が崩壊した。その後、モルシ氏が出身母体のイスラム組織ムスリム同胞団の支持を得て大統領に就任した。
 新政権は経済政策に失敗し、治安も改善していない。さらにイスラム教の価値観を反映させた保守的な新憲法も批判を浴び、完全に信頼が失墜した。クーデターを回避するために、辞任して国民に信を問う選択もあったのではないか。
 エジプト地域戦略研究所のサイード所長によると、ムスリム同胞団は議会で多数派を占め、原理主義的で過激なイスラム勢力が同胞団を右よりに引っ張り、リベラル派を追い出してしまった。
 その結果、エジプトは「新興宗教国家」の様相を呈し「民主主義を実現したとはとても言えない」状況に陥ってしまったという。
 今回のクーデターは「2度目の革命」ではなく、大規模な反政府デモに乗じて、旧体制派の軍が同胞団を追い出して権力を奪還したという構図ではないか。同胞団が反発して暴力に訴えれば、混乱の拡大と長期化は避けられない。主要産業の観光はさらに落ち込み、外国の投資は冷え込み、経済はますます悪化するだろう。
 民主主義は寛容と協力、譲歩を重視する。エジプトは今、民主主義が試されている。あくまでも軍の力に頼らず民主的選挙によって国家分断の危機を克服してほしい。
 エジプトという中東地域の大国の民主化が挫折すれば、同じく「アラブの春」で誕生した国々に悪影響を及ぼし、中東一帯の不安定化につながりかねない。
 混迷するエジプトの現状を解決するために、国際社会は手をこまねいていてはならない。エジプト経済を立て直すための金融支援をはじめ、国連が仲介役となって政治的な問題を一つ一つ取り除いていく努力が求められている。