原発事故不起訴 責任不問で法治国家か


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 誰一人として、未曽有の大事故を招いた責任を問われない。被災地・福島の悲痛な告発は黙殺された。不条理極まりない結論だ。

 東京電力第1原発事故を起こしたとして、業務上過失致死傷罪などで刑事告訴・告発された東電幹部や菅直人元首相ら42人について、東京地検が不起訴処分にした。
 隠された証拠が見つかる可能性があるにもかかわらず、東京地検は、東京電力への家宅捜索などの強制捜査に踏み込まなかった。
 「業務上過失の法的な責任が問いにくい」という見立てに引きずられ、腰が引けた捜査は新事実を明らかにする努力を尽くしていない。福島県民や国民の意識との溝はあまりにも大きい。
 第一の当事者である東電幹部、原発推進の旗を振り、事故発生時に原発政策の要職に就いていた政治家や官僚の誰も責任が問われない結論が許されていいのか。再発防止にも影を落とすだろう。
 大量の放射性物質をまき散らした事故により、福島県民約14万7千人が避難生活を強いられている。環境が激変した避難先での病死や自殺など、原発事故関連死に追いやられる人が後を絶たない。
 原発事故は「安全神話」にとらわれ、津波対策を怠った「原子力ムラ」がもたらした明白な人災のはずだ。福島第1原発は廃炉作業どころか、汚染水漏れが続き、国内外の不安を増幅している。
 規制当局を含めた国と電力業界が一体となった「国策民営」の“罪”に切り込まない不起訴処分は、法治国家への疑念を投げ掛け、日本の国際的信用にもかかわる。
 東電は2008年、政府機関の予測に基づいて、福島第1原発で予想される津波の高さを、最大15・7メートルと試算していた。だが、巨大津波対策を怠り、東日本大震災が起きて同原発は制御を失った。
 国会の事故調査委員会は「東電と原子力規制当局は対策を立てるチャンスがあったのに、意図的に先送りした。明らかな人災だ」と断定していた。
 対照的に「刑事司法の限界」を意識していた検察当局は、東日本大震災と大津波の発生は予見不可能で、責任は問えないと判断した。
 人命に直結する原発の安全性確保と不離一体の最高度の注意義務が求められる。不起訴を不服とした告訴団は検察審査会に申し立てる。検察審査会は刑事責任の有無を厳しく問い直してほしい。