「65カイリ」基準 事実関係検証し説明を


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 2010年に鳩山政権が米軍普天間飛行場の徳之島移設断念の理由に挙げた「移設距離基準」に、疑惑の目が向けられている。

 普天間のヘリコプターの分散移転先の条件として、沖縄の中北部訓練場での一体運用が確保できる範囲内として米側から提示されたと報じられていた「65カイリ」(約120キロ)がその基準だ。
 外務省作成とみられる内部文書(極秘)にもこの記述がある。「『65海里』は、回転翼航空部隊の拠点と同部隊が(陸上部隊と)恒常的に訓練を行うための拠点との間の距離に関する基準であり、米軍のマニュアルに明記されている」と。
 ところが本紙の取材に対し、在沖米海兵隊は本国にも確認した上で「海兵隊の公式な基準、規則にはない」と否定したのだ。
 当時首相の鳩山由紀夫氏はこの距離の問題が「最も致命的だった」と述べている。虚構の基準を根拠に県外移設の可能性がついえたのだとしたら、重大な問題だ。
 内部文書は、米大使館で行われた会議をもとに「普天間移設問題に関する米側からの説明」としてまとめられている。どんな経緯で「65カイリ」が出てきたのか、なぜ極秘扱いなのか、政府は事実関係をきちんと検証し説明すべきだ。
 「65カイリ」基準は、普天間県外移設を断念させるための官僚側のこじつけか、都合のいい解釈をした結果ではないか。そのことは、徳之島移設案に関する内部文書の次の記述からもうかがえる。
 「地元の反対にかんがみれば、仮に建設工事を着工した場合の地元住民等による妨害等も想定され、政治的に持続可能ではない」
 徳之島の反対には配慮して、沖縄の反対は顧みないのか。米側から示された懸念とされているが、そうだとしたら、沖縄の状況が米側に正確に伝わっていない、伝えていないということだろう。この認識と姿勢はどこから来るのか。構造的な差別と怠惰な政治が透けて見える。
 米シンクタンクは今年4月の報告書で、第31海兵遠征部隊(31MEU、約2200人)を除く在沖海兵隊の大部分を本国に移転しても、展開能力への影響はわずかしかない、との見方を示した。
 普天間問題は決定的な意味を持たない距離基準にしがみつくよりも、米側に強まっているこうした視点を重視しながら、沖縄の民意に応える解決策を探るべきだ。