教科書検定・沖縄戦の実相歪めないか/政府の思惑先取りの傾向に

 文部科学省は、2008年度から使用される高校教科書の検定結果を発表した。
 日本史教科書で沖縄戦の集団自決(集団死)について、日本軍の命令や強要があったとの記述には、近年の状況を踏まえると必ずしも明らかと言い切れず、「実態を誤解する恐れがある」との検定意見を付けた。意見を受けた5社は、「自決した住民もいた」「なかには集団自決に追い込まれた人々もいた」など、日本軍の関与に直接言及しない記述に修正した。
 集団自決をめぐる「軍の関与」については、昨年までは何の意見も付いていなかった。今回、初めて検定意見が付けられた。

◆多数の県民が自決
 政府の意向に沿った検定意見と受け止めていいだろう。日本軍の直接の命令があったかどうかは、確かに意見が分かれるところだ。ただ、検定意見には大きな疑問が残る。
 沖縄戦では多数の住民が自ら命を絶ったり、肉親を手にかけた事例があったのは事実だ。そこに日本軍の命令があったかどうかの以前に、沖縄で戦争があり、日本軍が駐屯していたことが多くの命を絶った根幹の理由だ。
 今回の検定で焦点になっている軍命については、当時の指揮官が証拠がないとして裁判で訴えている。
 一方で、日本兵から自決を指導されたと証言している住民は多い。日本軍から手りゅう弾を渡されたという住民の証言もある。
 直接、軍が命令を下さなくても、当時は日本軍に強制された状況下に置かれていたと考えるのが妥当だと指摘する研究者もいる。
 文科省もこうした考えを「通説」としてきたのだが、今回、軍の関与を否定する意見を付けた。
 検定意見では、「誤解の恐れ」の根拠に、軍命令の存在に疑問を呈している書籍や現在係争中の裁判での陳述を挙げた。ただ、係争中の裁判での陳述を根拠の一つにするのはどうだろうか。陳述はまだ争われている最中なのだから。
 肉親の集団自決を体験した金城重明さんは検定意見について「打ち消せない事実を隠ぺいするものだ。歴史を改ざんしている」と批判している。
 沖縄戦の実相を歪(ゆが)める検定になっていないか懸念する。検定に何らかの意図があってはならないだろう。歴史の受け止め方は人それぞれだろうが、国が歴史についての考え方を押し付けていいのだろうか。
 また気になるのは、従軍慰安婦について「日本軍の関与」に触れた教科書が申請段階からなかったことだ。
 安倍晋三首相は、慰安所の設置・管理や慰安婦の移送には日本軍が直接あるいは間接に関与したことを認めて謝罪した河野談話を踏襲しながらも、日本軍の「狭義の強制性」を否定している。教科書会社が議論になるのを恐れたのなら、逃げ腰と批判されよう。

◆教科書は学ぶ入り口
 過去の検定では、「県民が一丸となって抗戦した」とか「女学生が尊い命をささげた」と記述した教科書が合格した。
 美化したり、実相と懸け離れた記述からは、歴史の教訓が学べない。実相に近づき、伝える努力を怠ってはならない。
 私たちは歴史から多くのことを学ぶ。学ぶ入り口の一つが教科書だ。その教科書が政府の意向を受け過ぎていたら問題だろう。
 安倍首相は内閣の最重要課題に掲げる教育三法改正案を国会に提出した。今国会での成立を目指している。
 三法の一つ「学校教育法改正案」には、「我が国と郷土の現状と歴史について正しい理解に導き、伝統と文化を尊重」との目標が設けられている。
 でも、「正しい理解」を誰が決めるのだろうか。学校では、多様な見方があるのを学ぶことを教えるのが大事だ。
 歴史の見方を国が押し付けてはならないのは指摘するまでもない。
 中立性を保つことが教育の基本だ。押し付けていたら、政府の意向に沿った画一的な教育しかできないことになる。
 特に歴史教科書では、押し付けはやめるべきだ。
 多数の住民を巻き込んだ沖縄戦については、きちんと検証し、教科書に記述して、伝えていくことが重要だ。過ちを繰り返してはならないからだ。