農業改革 拙速排し国民議論尽くせ


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 政府の規制改革会議が、全国農業協同組合中央会(JA全中)を頂点とする中央会制度の廃止などJAグループの組織再編を柱とする農業改革案をまとめた。

 安倍晋三首相は農協、農業生産法人、農業委員会の改革を「3点セットで断行する」と述べ、意気込んでいる。しかし、農業関係者らは「現場実態を無視した結論ありきの改革」と激しい反発を見せている。
 戦後農政の一大転換となる改革だ。政府は拙速に事を運ばず、丁寧な説明と議論を尽くすべきだ。
 農業に従事しない准組合員が正組合員を上回るなど、JAが組織として曲がり角にあることは関係者も認めている。こうした中、改革案は中央会制度の廃止で地域農協の経営の自由度を高め、農家の営農指導など現場から農政を支える方向で農協の再生を目指すという。
 この一環で、地域農協が手掛ける貯金や融資などの金融事業を農林中央金庫や信用農業協同組合連合会(信連)、共済事業を全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)に移すよう求めている。
 しかしこうした改革は、JAグループから見れば、JAの歴史的な役割やネットワークを軽視した組織解体に等しいものだ。
 改革案は、農産物の販売を手掛ける全国農業協同組合連合会(JA全農)の株式会社化も盛り込むが、そうなれば不採算部門は切り捨てられ、不利益を被る農家が出るのは避けられないだろう。
 一方改革案は、農業生産法人への企業の出資制限を「総議決権の25%以下」から緩和し、一定期間の事業継続などの条件を満たせば全額出資も認めて、企業の農地所有を可能にするよう求めている。しかしこれも、採算が悪くなったら耕作放棄され、農地が転用されないかなどの懸念が残る。
 政府は農業分野への企業参入の促進、ビジネスチャンスの拡大で競争力強化を図る狙いだが、市場原理や効率性を農業にどこまで持ち込むのか、厳格な検証が必要だろう。
 改革は、環太平洋連携協定(TPP)交渉が妥結して海外から安い農産物が入ってくる事態に備える側面もある。しかし、国論を二分する協定の日程に合わせる形で結論を出すことは許されない。
 食の安全・安心、農業の環境保全機能なども含め、農業改革は国民生活にも深く関わる。議論を重ね、国民的理解を得る必要がある。