西普天間地区 緻密な検証が必要だ


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 真新しい構想はそれだけで歓迎されがちである。健康に関わる施設となればなおのことだ。それだけに落とし穴は見過ごされがちで、慎重な見極めが求められる。

 2015年3月に返還予定の米軍キャンプ瑞慶覧・西普天間住宅地区の跡地に国際医療拠点を形成する構想を県と宜野湾市が進めている。重粒子線治療施設の設置が核だが、周辺に琉球大学医学部付属病院と琉大医学部を移転させるという。
 あまりにも説明が足りない。そもそも重粒子線施設は本当に必要なのか。設置するにしても重粒子線施設が最適なのか。そこに疑問があれば琉大病院移転の必然性も崩れる。行政の壮大な無駄にならないか、緻密な検証が必要だ。
 構想には高く評価できる点もある。返還軍用地跡利用がいつも商業施設誘致と宅地開発なら、需要の先食いを競うだけである。土地利用の構想として「医療拠点」のような新機軸は確かに必要だ。
 ただ、構想の中身には幾つも疑問が湧く。重粒子線は従来の放射線治療と異なり、的を絞ってがん細胞を破壊できる利点がある。ただ、314万円という高額な治療費は全額自己負担だ。維持費だけで年間10数億~数十億円を要する。だが治療開始から10年以上になる兵庫県立粒子線医療センターは年間700人が採算ラインだが、達成できた年は一度もない。県の一般会計から毎年5億~6億円を持ち出す。佐賀県鳥栖市の九州国際重粒子線治療センターも民設民営が建前だが、県が8億円余も追加補助し、鳥栖市も5年で4億5千万円の補助を決めた。沖縄も二の舞いになる危険性を吟味すべきだ。
 重粒子線施設は稼働した例が全国に8カ所あり、建設中、計画中も数カ所ある。そこに沖縄が割り込んで高額負担ができる患者を500人も毎年、確保できるのか。
 同様の利点がある治療にはほかに陽子線治療があり、ホウ素中性子捕捉療法も研究が進む。これらは維持費が重粒子線より一桁安い。重粒子線は150億円もの初期投資が必要で、一括交付金を投ずるという。だが初期投資も陽子線などの方が格段に安い。真剣に検討したのか。現計画は壮大な無駄遣いではないか。
 琉大病院は西原町から公有地の提供を受けて造られた。移転が妥当なのか。移転自体が必要か。行政の無駄を省くという点で、こちらも多方面から吟味すべきだ。